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個人事業主の廃業・事業承継完全ガイド|届...

2026/8/5

個人事業主の廃業・事業承継完全ガイド|届出と税金の実務を徹底解説

  • 確定申告

個人事業をたたむときは、廃業届を含む複数の届出と、最後の確定申告での在庫・設備の処理がセットで必要になります。廃業・休業・事業承継の選び分けから、届出ごとの提出先と期限、廃業日をいつにするかで変わる税額、事業主が亡くなったときの準確定申告まで、出口の実務を通しで整理しました。

開業のしかたを説明した情報は世の中にあふれているのに、やめるとき・引き継ぐときの手順はまとまって書かれたものがほとんどありません。しかも出口には、届出の期限、在庫と設備の後始末、廃業した翌年に届く住民税と国民健康保険料の請求といった、順番を間違えると取り返しがつかない論点が集中しています。このガイドでは、迷いやすい判断から順に、廃業日を決める前・決めたあと・終わったあとの3段階で整理していきます。

☑ 事業をやめるか続けるか迷っていて、廃業と休業のどちらを選ぶべきか判断がつかない

☑ 廃業届を出せば終わりだと思っていたが、他にも書類がありそうで不安

☑ 子どもや第三者に事業を引き継ぎたいが、税務上どんな手続きになるのか分からない

☑ 家族が個人事業主のまま亡くなり、何をいつまでにすればよいのか調べている

当てはまる見出しから読み進めてください。各章の末尾には、より深く知りたい方向けにテーマ別の解説記事へのリンクを置いています。

廃業・休業・事業承継——出口の3つはどう選び分ける?

事業の出口には、廃業(事業そのものを終える)・休業(届出は出さずに活動を止める)・事業承継(人に引き継ぐ)の3つがあります。選ぶ基準は「将来また事業をする可能性があるか」「引き継げる資産や顧客があるか」の2点です。迷ったまま何もしないのが最も損で、確定申告や国民健康保険の手続きが宙に浮きます。

3つの違いを一覧で比べると

それぞれの届出の要否・青色申告の扱い・向いているケースを並べると、違いがはっきりします。

選択肢

税務署への届出

青色申告の扱い

向いているケース

廃業

廃業届など一式を提出

取りやめ届で終了。再開時は再申請

再開の予定がなく、資産の整理もできる

休業

法律上の届出は不要(所得ゼロでも申告は検討)

承認は継続するが、2年連続で申告書を出さないと取消の対象

体調・育児・介護などで一時的に止める

事業承継

前事業主は廃業届、後継者は開業届

後継者が自分で承認申請(前事業主の承認は引き継げない)

顧客・設備・屋号に引き継ぐ価値がある

表で押さえておきたいのは、休業に「休業届」という制度が所得税にはないという点です。活動を止めても税務署から見れば事業は継続中で、収入がなければ所得ゼロの申告をするか、申告不要の判断を自分でする必要があります。青色申告の承認は、2年続けて期限内に申告書を提出しないと取り消しの対象になるため、再開を見込んで承認を残したい方は、たとえ所得ゼロでも期限内に申告書を出しておくのが安全です。

どれを選ぶ?5つの質問で決める判断フロー

上から順に答えていくと、自分の出口が絞れます。

  • ① 引き継ぎたい相手(親族・従業員・第三者)がいて、その人に渡す設備や顧客がある → 事業承継へ(後述の「事業承継はどう進める?」へ)

  • ② 引き継ぐ相手はいないが、1〜2年以内に再開する見込みが具体的にある → 休業。青色申告の承認を維持するため、所得ゼロでも期限内申告を続ける

  • ③ 再開の見込みはないが、売掛金の回収やリース契約の残りがある → 回収と契約整理の目処が立つ月を廃業日にする(届出の章へ)

  • ④ 今年はまだ黒字が見込めて、年内に設備を処分できる → 年内廃業で除却損を当年の所得にぶつける選択肢が有力(廃業日と税金の章へ)

  • ⑤ 会社員に戻る・法人を設立する → 廃業届に加えて、給与所得や法人側との二重計上に注意(事業承継の章へ)

③〜④で「やめる方向だが時期を決めきれない」という段階なら、まず在庫と設備を減らしながら数か月かけて縮小する進め方もあります。手元資金を守りながら店じまいに向かう順序は、事業を縮小・撤退する時期の資金と節税の考え方で具体的に整理しています。

「とりあえず廃業届」を出す前に確認したいこと

廃業届そのものは、出したら二度と事業を再開できないという書類ではありません。ただし、いったん出すと青色申告の承認や消費税の届出状況が動くため、再開するときは手続きをやり直すことになります。特に、消費税の課税事業者を選択していた方や、インボイス発行事業者の登録をしている方は、廃業と再開の間で登録番号が変わる可能性があります。「数か月だけ休む」程度なら、廃業届を出さずに休業扱いで様子を見るほうが手戻りは少なくなります。

記帳代行の現場でも、廃業のご相談は「もう決めた」ではなく「たぶんやめる」という段階でいただくことがほとんどです。そのとき最初にお伝えしているのは、廃業日を決める前に、売掛金の残り・リースやサブスクの契約期間・在庫の量の3つを書き出してみてください、ということです。この3つが片付く月が見えると、廃業日は自然に決まります。

廃業のときに出す届出は?提出先と期限の一覧

廃業時の届出は、税務署に出すものが最大5種類、都道府県税事務所に1種類あります。中心になるのは「個人事業の開業・廃業等届出書」で、廃業の事実があった日から1か月以内が提出期限です。従業員を雇っていた方や消費税の課税事業者だった方は、追加の届出が必要になります。

届出の一覧表——何を、どこに、いつまでに

自分に必要なものだけを拾えるよう、対象者と期限を一覧にしました。

届出の名称

提出先

提出期限

対象者

個人事業の開業・廃業等届出書(廃業届)

納税地の所轄税務署

廃業の日から1か月以内

全員

所得税の青色申告の取りやめ届出書

納税地の所轄税務署

取りやめようとする年の翌年3月15日まで

青色申告をしていた人

事業廃止届出書(消費税)

納税地の所轄税務署

事由が生じた場合は速やかに

消費税の課税事業者・課税事業者選択をしていた人

給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書

納税地の所轄税務署

廃止の事実があった日から1か月以内

従業員や専従者に給与を払っていた人

所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書

納税地の所轄税務署

第1期・第2期分は7月1日〜7月15日、第2期分のみは11月1日〜11月15日

予定納税の通知が来ている人

事業開始(廃止)等申告書

都道府県税事務所

おおむね廃業日から10日以内(自治体により異なる)

全員(個人事業税の対象者)

廃業届の様式や提出方法は、国税庁の手続案内「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」で確認できます(2026年8月時点)。書式は開業届と同じ用紙で、上部の「届出の区分」欄で廃業に丸を付け、廃業日と事由を記入します。e-Taxでも提出できるため、税務署に出向く必要はありません。

消費税については、国税庁タックスアンサーNo.6603「個人事業者が事業を廃止した場合」に、事業廃止届出書を出せば課税事業者選択不適用届出書など関連する届出も提出があったものとして扱われる旨が示されています。個別に何枚も出す必要はないという実務上ありがたい取り扱いですが、逆に言えば「事業廃止届出書を出し忘れると、課税事業者の状態がそのまま残る」ということでもあります。

期限を過ぎたらどうなる?

廃業届の提出が1か月を過ぎても、罰則が科されることは基本的にありません。ただし、届出が出ていないと税務署の記録上は事業が続いていることになり、翌年以降も確定申告の用紙や予定納税の通知が届き続けます。放置すると「申告が必要なのに出していない」と誤解される状態になり、お尋ねの文書が届く原因になります。気づいた時点で、廃業日をさかのぼって記入して提出すれば問題ありません。

都道府県税事務所への申告書も忘れやすい書類です。これを出さないと個人事業税の課税台帳が更新されず、廃業した翌年以降も納税通知が届くことがあります。個人事業税は8月と11月の年2回払いなので、廃業した年の8月に思いがけない請求が来て驚くケースもあります。届出の全体像と記入のポイントは、廃業手続きと最後の確定申告の進め方で書類ごとに解説しています。

税務署以外に必要な手続き

税務まわりが片付いても、事業をやめる手続きはまだ残ります。抜けやすいものを挙げます。

  • 国民健康保険・国民年金:会社員になる場合は勤務先の社会保険へ切り替え。市区町村での資格喪失手続きが必要です

  • 労働保険・社会保険:従業員がいた場合、労働保険の確定保険料申告、雇用保険適用事業所廃止届(廃止日の翌日から10日以内)などを労働基準監督署・ハローワークへ

  • 許認可の廃止届:飲食店営業、建設業、古物商などは、それぞれの窓口へ廃止の届出が必要です

  • 取引先・金融機関:請求と支払の締め、事業用口座やクレジットカードの整理。ただし口座は入出金が完全に止まってから解約します

  • リース・サブスク・レンタルサーバー:中途解約の違約金が発生することがあるため、廃業日を決める前に契約期間を確認します

特に注意したいのが事業用口座です。廃業後も売掛金の入金や公共料金の引き落としが数か月続くことが多く、先に解約すると入金が返還されたり、引き落とし不能になったりします。最終年分の確定申告を終えてから整理すれば十分です。

廃業年の確定申告では何をする?在庫・設備・売掛金の処理

廃業した年も、翌年の2月16日から3月15日までの通常の期間に確定申告をします。1月1日から廃業日までの事業所得を計算するのが基本ですが、廃業年ならではの論点が3つあります。売掛金・買掛金の計上、在庫(棚卸資産)の処分、そして固定資産の除却・売却です。

売掛金は「入金が翌年でも廃業年の売上」

個人事業の所得計算は発生主義が原則です。商品を渡した日・サービスを提供した日に売上を計上するため、廃業日までに終わった仕事の代金は、入金が翌年になっても廃業年の売上になります。同じく、廃業日までに受けた仕入やサービスの代金は、支払いが翌年でも廃業年の必要経費です。「通帳の入金合計=その年の売上」と考えていると、最後の1〜2か月分がまるごと抜け落ちます。

回収できないまま終わる売掛金がある場合は、貸倒れとして必要経費にできるかを検討します。ただし相手が単に払わないだけでは貸倒れにならず、法的整理の決定や、取引停止から一定期間の経過といった要件があります。廃業日までに回収の見通しを立てておくほうが、はるかに確実です。

在庫(棚卸資産)の3つの行き先

売れ残った在庫は、廃業日時点で3つのいずれかの処理をします。処理によって税金への影響が変わります。

  • 売り切る:通常の売上として計上。閉店セールで原価割れしても、実際の販売価額で構いません

  • 自分や家族が使う(家事消費):通常の販売価額の70%と仕入価額のいずれか高い金額を収入に計上します。「タダで持ち帰った」では済まない点に注意が必要です

  • 廃棄する:廃棄損として必要経費に計上。処分業者の請求書や廃棄時の写真など、実際に捨てた事実を残す資料を必ず保管します

後継者や第三者に在庫をまとめて譲る場合は、譲渡代金が売上になります。無償で渡したときも、家事消費と同様に時価相当額の収入計上を求められることがあるため、金額を決めて売買の形にしておくほうが後の説明が簡単です。

固定資産は除却損か、譲渡所得か

設備や車両などの固定資産は、扱い方で計上先が変わります。処分して捨てるなら「除却損」として事業所得の必要経費、売却するなら原則として「譲渡所得」の計算対象です。個人事業主の場合、機械や車両の売却益は事業所得ではなく譲渡所得になる点が、法人と大きく違うところです。

減価償却費は、廃業日までの月数で按分します。3月31日に廃業したなら、その年の償却費は年額の12分の3です。廃業日時点の未償却残高が、除却損や譲渡所得の計算の出発点になります。青色申告決算書の減価償却費の内訳欄には、廃業に伴う除却であることが分かるように摘要を記入しておくと、後から見返したときに経緯が追えます。

必要経費の基本的な考え方は国税庁タックスアンサーNo.2210「必要経費の知識」で確認できます(2026年8月時点)。あわせて押さえたいのが、事業を廃止した後に生じた費用の特例です。所得税法第63条により、廃業しなければ必要経費になったはずの費用(廃業後に届いた最終月の通信費や、店舗の原状回復費など)は、廃業年分または前年分の必要経費に算入できます。廃業後の支出だから経費にできない、と諦める必要はありません。

もうひとつ、廃業年に限って使える取り扱いがあります。個人事業税は前年の所得に対して翌年課税されるため、廃業年分の事業税は通常なら経費にできる年がありません。そこで、廃業年分の事業税の課税見込額を、廃業年分の必要経費に算入できる特例が設けられています。計算式がやや複雑なので、青色申告決算書を作るときに事業税の見込控除欄を確認してください。

ここまでの処理を一人で組み立てるのが不安な方は、最終年分だけでも確定申告をまとめて代行してもらう方法があります。廃業年の申告は資産の整理と申告書作成が同時に来るため、外注の費用対効果が出やすい年でもあります。

廃業日をいつにするかで税金はどれだけ変わる?

廃業日の選び方で、納める税金は数十万円単位で変わることがあります。効いてくるのは、除却損や廃棄損といった大きなマイナスを「どの年の所得にぶつけるか」です。所得税は累進税率なので、所得が高い年に損失を当てるほど節税効果が大きくなります。

12月廃業と翌年2月廃業を数字で比べる

青色申告をしている個人事業主Aさんを例にします。前提は、通常年の事業所得(青色申告特別控除後)が300万円、所得控除の合計が100万円、廃業時に処分する設備の未償却残高が120万円。翌年に営業を続ける場合、1〜2月の2か月分の事業所得は50万円とします。所得税は速算表、住民税は所得割10%の概算です。

比較項目

パターン1:本年12月31日に廃業

パターン2:翌年2月末に廃業

本年の事業所得

300万円−除却損120万円=180万円

300万円

本年の課税所得

180万円−100万円=80万円

300万円−100万円=200万円

本年の所得税・住民税(概算)

約4万円+約8万円=約12万円

約10.3万円+約20万円=約30.3万円

翌年の事業所得

なし

50万円−除却損120万円=△70万円

翌年の税額

0円

0円(所得控除100万円は使い切れず切り捨て)

2年間の税負担

約12万円

約30.3万円

パターン2は2か月分の売上(所得ベースで50万円)を余計に稼いでいるにもかかわらず、税負担は約18万円多くなります。理由は単純で、120万円の除却損を、税率の高い年ではなく、所得が50万円しかない年にぶつけてしまったからです。損失70万円と所得控除100万円は、事業がもう無いため翌々年以降に活かす場もありません。

ただしパターン2でも、青色申告なら「純損失の繰戻し還付」を選べます。翌年に生じた純損失70万円を前年(本年)の所得と通算し、本年に納めた所得税の還付を受ける制度です。これを使えば税負担の差はかなり縮まります。逆に言えば、白色申告のまま年をまたいで廃業すると、この救済手段が使えません。廃業を決めた年の申告を白色から青色に切り替えるのは間に合わないため、やめる可能性が見えた段階で青色を維持しておく価値はここにあります。

廃業年に使える控除・使えなくなる控除

廃業年でも、青色申告特別控除は要件を満たせば適用できます。65万円控除には複式簿記による記帳と、e-Taxでの申告または優良な電子帳簿の保存が必要という条件は通常年と同じです。廃業したからといって控除額が減るわけではないので、最後の1年こそ帳簿を締めきる価値があります。

一方で使えなくなるのが、青色事業専従者給与です。専従者は「1年のうち6か月超その事業に従事していること」が原則ですが、年の途中で廃業した場合は「従事可能期間の2分の1超」で判定します。5月末に廃業したなら従事可能期間は1〜5月の5か月なので、その2分の1にあたる2.5か月を超えて従事していれば要件を満たす、という考え方です。廃業月によっては専従者給与が否認されることがあるため、事前に従事期間を確認しておきましょう。

小規模企業共済に加入していた方は、個人事業の廃業が共済金の受取事由になります。一括で受け取ると退職所得として扱われ、退職所得控除と2分の1課税により、税負担が大きく抑えられます。ただし受け取る年と廃業年が同じかどうかで手取りが変わるため、廃業前年からの準備が効いてきます。廃業を見据えたときの所得のならし方や共済の使い方は、事業をやめる前年から始める所得調整に手順としてまとめています。引退後の生活資金まで含めた組み立ては、事業承継・引退を見据えた節税と資金準備が参考になります。

廃業した翌年に来る請求を忘れない

実務で最も多い失敗が、廃業した翌年の資金不足です。住民税は前年の所得に対して6月から課税され、国民健康保険料も前年所得ベースで決まります。個人事業税も前年分が8月・11月に来ます。つまり、廃業して収入がゼロになった年に、事業をしていた年の税負担がまとめて請求されるのです。先ほどのAさんの例なら、本年の住民税8万円は翌年6月以降に納めることになります。廃業年の手元資金は、最低でも「前年の住民税+国民健康保険料+個人事業税」の見込額を残しておくのが安全です。

事業承継はどう進める?親族内・第三者・法人化の3ルート

個人事業の承継は、法人の株式譲渡のように「会社ごと渡す」形になりません。前の事業主が廃業届を出し、後継者が開業届を出したうえで、資産・契約・許認可を個別に移していきます。ルートは親族内承継、第三者へのM&A、自分で法人を設立して引き継ぐ法人成りの3つです。

個人事業の承継は「廃業+開業」の形をとる

事業を引き継いでも、税務上は別人格の事業が新たに始まったものとして扱われます。そのため後継者は、開業届に加えて青色申告承認申請書を自分の名前で提出しなければなりません。前の事業主の青色申告の承認は引き継げないという点は、承継実務で最も間違えやすいところです。原則として業務を開始した日から2か月以内が申請期限で、これを逃すとその年は白色申告になります。

消費税の納税義務も判定し直しになります。新しく事業を始めた個人事業者は、基準期間(前々年)の課税売上高がないため、原則として初年度と2年目は免税事業者です。ただし、取引先からインボイスを求められて登録すれば、登録した時点から課税事業者になります。この判断は、承継後の取引先が事業者中心か消費者中心かで変わります。

親族内承継で移すもの、移せないもの

親族内承継では、渡すものを1つずつ整理します。実務での典型的な扱いは次のとおりです。

  • 設備・車両・在庫:売買か贈与で移転。売買なら前事業主に譲渡所得・売上、贈与なら後継者に贈与税の検討が必要です

  • 屋号・店舗の看板:登録商標でなければ、後継者がそのまま使えます

  • 取引先との契約:原則として契約し直し。継続的な取引ほど、早めに紹介と挨拶を済ませておきます

  • 許認可:原則として後継者が取り直し。相続の場合に承継の届出で足りる業種もあります

  • 借入金:金融機関の同意が必要。名義変更ではなく、後継者による借換えになることが多い形です

  • 従業員:いったん退職・再雇用の形になるため、退職金や有給休暇の扱いを事前に決めます

贈与で移す場合、事業用資産の評価額によっては後継者に多額の贈与税が発生します。この負担を抑える仕組みとして個人版事業承継税制(贈与税・相続税の納税猶予)がありますが、事前の計画提出や、その後の継続要件など条件が細かく、途中で要件を満たさなくなると猶予されていた税額を納めることになります。使うかどうかは、資産の規模と後継者の継続意思をよく確認したうえで判断してください。

第三者承継(M&A)と法人成りという選択

後継者が身内にいない場合でも、顧客リスト・立地・技術といった価値があれば、第三者に譲る道があります。個人事業のM&Aは事業譲渡の形になり、譲渡代金のうち設備部分は譲渡所得、在庫部分は事業所得、のれん(営業権)に相当する部分は原則として譲渡所得として課税されます。契約書で内訳を明示しておかないと、後から所得区分を整理できなくなるので注意が必要です。

自分で法人を設立して事業を移す法人成りも、個人事業としては廃業の一形態です。個人の最終年分の確定申告では、法人へ引き継いだ資産の処理と、個人期間・法人期間の売上の切り分けが論点になります。「法人設立日以降の売上を個人の決算書に残してしまう」「車両を法人に移したのに個人で償却を続ける」といった処理の混線が起きやすいところです。移行年の具体的な処理は、事業を法人に引き継いだ年の確定申告で個人最終年度の作り方として解説しています。

承継のスケジュールは3年前から

親族内承継の実務では、引き継ぎに3年程度をかけるのが現実的です。1年目に事業の棚卸し(資産・負債・取引先・許認可の一覧化)と後継者の意思確認、2年目に後継者を事業に関与させながら取引先へ紹介、3年目に資産の移転と届出、という流れです。特に決算数字と資金繰りの共有は早いほど良く、帳簿がきちんと付いているかどうかが承継の速度を大きく左右します。

実際、記帳代行でお預かりする書類を見ていても、承継がスムーズな事業ほど月次の帳簿が整っています。逆に、領収書が段ボールのまま数年分たまっている状態だと、後継者も金融機関も事業の実態をつかめず、引き継ぎの話が前に進みません。承継を考え始めたら、まず直近1年分の帳簿を締める——これが最初の一歩になります。

事業主が亡くなったときは?準確定申告と相続人の対応

個人事業主が亡くなった場合、相続人は相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に、亡くなった方の1月1日から死亡日までの所得について確定申告をします。これが準確定申告です。通常の申告と違い期限が短いため、葬儀と並行して準備を進める必要があります。

4か月以内の準確定申告で気をつけること

期限と手続きは、国税庁タックスアンサーNo.2022「納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」に定められています(2026年8月時点)。相続人が2人以上いる場合は、原則として全員が連署して1通の申告書を提出します。各相続人が別々に提出することもできますが、その場合は他の相続人に申告内容を通知しなければなりません。

実務で迷いやすいのが所得控除の扱いです。医療費控除は死亡日までに支払った分が対象で、死亡後に相続人が支払った分は対象になりません(要件を満たせば相続人自身の医療費控除になる場合があります)。生命保険料控除・社会保険料控除も、死亡日までに支払われたものが対象です。一方、配偶者控除や扶養控除の判定は死亡日時点の状況で行います。

提出先は、亡くなった方の死亡当時の納税地の所轄税務署です。相続人の住所地ではない点に注意してください。準確定申告書には「死亡した者の準確定申告書付表」を添付し、相続人全員の氏名・住所・相続分などを記載します。書き方の手順は準確定申告の期限と手続きで、必要書類とあわせて確認できます。

相続人が事業を続ける場合/やめる場合

相続人が事業を引き継ぐ場合、その相続人は自分の事業として開業届を出し、青色申告承認申請書も改めて提出します。この申請には相続特有の期限があり、被相続人が青色申告をしていた場合、死亡日が1月1日〜8月31日なら死亡日から4か月以内、9月1日〜10月31日ならその年の12月31日、11月1日〜12月31日なら翌年2月15日までが期限です。通常の「2か月以内」とは異なるため、必ず確認してください。

引き継ぐ事業用資産の減価償却は、相続人が被相続人の取得価額・耐用年数・経過年数を引き継いで計算します。相続時の時価で計算し直すわけではありません。ここを間違えると償却費が大きくずれ、複数年にわたって申告をやり直すことになります。引き継いだ資産の償却計算と初年度の申告の組み立ては、相続で事業用資産を引き継いだ場合の確定申告と減価償却にまとめています。

事業を続けない場合は、準確定申告に加えて廃業届の提出が必要です。この場合の廃業届は相続人が提出します。在庫や設備は相続財産として相続税の対象になり、事業用資産の評価が必要になることもあります。売掛金の回収と買掛金の支払いも相続人が引き継ぐため、取引先への連絡は早めに行いましょう。

消費税の納税義務は引き継がれる場合がある

相続で事業を承継した年は、消費税の納税義務の判定が特殊です。相続人自身の基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、被相続人の基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていれば、相続があった日の翌日からその年の12月31日までは課税事業者になります。「自分は開業したばかりだから免税」と思い込むと、消費税の申告漏れにつながります。翌年・翌々年の判定も、被相続人と相続人の課税売上高を合算して行う仕組みになっています。

廃業・承継で使える補助金と、やめた後も残る義務

事業を畳む・引き継ぐ場面でも、活用できる公的支援があります。代表的なのが事業承継・引継ぎを支援する国の補助金で、廃業にかかる費用(店舗の原状回復費、在庫の廃棄費用、設備の解体費など)を対象に含む枠が設けられてきました。一方で、廃業しても帳簿の保存義務など、数年間続く義務が残ります。

廃業費用も対象になる補助金がある

事業承継やM&Aを支援する国の補助金には、承継・引継ぎに伴って生じる廃業費用を対象経費に含む枠があります。事業の一部を残しつつ不採算部門を畳むケースや、第三者に引き継いだ後に旧店舗を整理するケースが典型です。ただし、単に事業をやめるだけでは対象になりません。承継・引継ぎとセットであることが前提で、公募回ごとに枠の名称・対象経費・補助率・申請要件が見直されます。申請を検討するなら、必ずその回の公募要領を確認してください。

申請には認定経営革新等支援機関の関与や、事業計画の提出を求められるのが一般的です。準備には数週間かかるため、廃業日を決める前に調べ始めるのが順序としては正解になります。制度の枠組みと申請の流れは、事業承継・引継ぎ補助金を個人事業主が活用する方法で整理しています。

廃業後も残る3つの義務

廃業届を出しても、次の3つはしばらく続きます。

  • 最終年分の確定申告:廃業した翌年の2月16日〜3月15日に提出します。廃業日が1月でも同じです

  • 帳簿・書類の保存:青色申告の帳簿は原則7年、白色申告の法定帳簿は7年、請求書・領収書などの書類は5年が基本です。廃業したからといって捨ててはいけません

  • 税金の納付:廃業年分の所得税・消費税に加え、翌年の住民税・国民健康保険料・個人事業税の納付が残ります

帳簿と書類は、廃業後に税務調査の連絡が来る可能性がある期間、保管しておく必要があります。段ボールにまとめて年度と種類を書いておく、電子取引データは指定のフォルダに残しておく、といった最低限の整理をしてから片付けましょう。何を何年残すかは書類の種類ごとに違うため、片付ける前に「保存するもの」「処分してよいもの」を年度ごとに仕分けしておくと、後から探す手間がなくなります。

よくある質問

Q. 廃業届を出さずに放置するとどうなりますか?

罰則はありませんが、税務署の記録上は事業が継続している扱いのままになります。確定申告書の用紙や予定納税の通知が届き続け、申告義務があるのに出していないと見なされてお尋ねの文書が来ることがあります。また、都道府県税事務所に廃止の申告をしていないと、個人事業税の納税通知が翌年以降も届く場合があります。気づいた時点で、実際の廃業日を記入して提出すれば大丈夫です。

Q. 廃業した年に赤字が出たら、その損失は使えますか?

青色申告なら2つの選択肢があります。1つは純損失の繰戻し還付で、前年の所得と通算して前年に納めた所得税の還付を受ける方法です。もう1つは翌年以降3年間の繰越控除ですが、廃業後に事業所得がないと使い切れないことが多く、実務では繰戻し還付のほうが有効です。白色申告の場合、繰戻し還付は使えず、繰越控除も変動所得・被災事業用資産の損失など限られた場合のみとなります。

Q. 廃業後に売掛金が回収できたら、追加で申告が必要ですか?

発生主義で廃業年の売上に計上済みなら、入金があっただけでは追加の申告は不要です。ただし、廃業年に計上し忘れていた売上が後から見つかった場合は、修正申告が必要になります。逆に、計上したのに回収できなかった場合は、要件を満たせば貸倒れとして処理し、更正の請求で税額の減額を求められることがあります。

Q. 事業を子どもに引き継ぐとき、開業届はいつ出せばいいですか?

後継者は事業を開始した日から1か月以内に開業届を提出します。あわせて青色申告承認申請書を、原則として業務開始日から2か月以内に出してください。相続による承継の場合は、被相続人の死亡時期に応じた特別な期限(死亡日が1〜8月なら4か月以内など)が適用されます。前の事業主の青色申告の承認は引き継がれないため、この申請を忘れるとその年は白色申告になります。

Q. 廃業したら屋号付きの銀行口座はすぐ解約すべきですか?

急がないでください。廃業後も売掛金の入金、公共料金やリース料の引き落としが数か月続くことが一般的です。先に解約すると入金が差し戻され、取引先に再送金を依頼する手間が生じます。入出金が完全に止まり、最終年分の確定申告を終えてから解約すれば十分です。解約前に、過去の明細をCSVやPDFでダウンロードして保存しておくことも忘れないでください。

出口は「決める・届ける・残す」の3段階で片付く

個人事業の出口は、①廃業・休業・承継のどれを選ぶか決める、②期限内に届出を出す、③帳簿と資金を残す、の3段階で整理できます。特に効くのは、廃業日を決める前に売掛金・契約・在庫の3つを書き出すことと、除却損のような大きなマイナスを所得の高い年にぶつけることの2点です。廃業した翌年に住民税と国民健康保険料の請求が来ることまで見込んで資金を残しておけば、最後まで慌てずに終えられます。

とはいえ、事業を畳む決断をした時期に、1年分の帳簿を締めて資産を1つずつ処理していくのは、精神的にも作業量的にも重い仕事です。領収書丸投げドットコムは、領収書・レシートや通帳のコピーを郵送かスマホ撮影で送るだけで記帳を代行する、個人事業主・フリーランス専門のサービスです。何枚たまっていても月額6,600円(税込)の定額・初期費用0円・契約の縛りなしで、確定申告までサポートしています。なお、令和8年分(2026年分)の記帳代行のお申し込みは2026年11月30日までとなっており、申し込み状況によっては早期に締め切る場合があります。まずは廃業年の帳簿と申告まで任せられるか、無料で相談してみるところから始めてみてください。相談は無料で、公式LINEでも24時間受け付けています。料金の内訳はプラン別の料金ページで確認できます。

【本記事の監修】
領収書丸投げドットコム 責任者 山下
個人事業主・フリーランス専門の記帳代行サービス「領収書丸投げドットコム」(運営:それいけ株式会社)の責任者として、日々の記帳代行・確定申告サポートの実務知見に基づき本記事の内容を確認しています。本記事は、国税庁など公的機関の公表情報をもとに作成しています。

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