相続で事業用資産を引き継いだ個人事業主の確定申告と減価償却を解説
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確定申告

相続で事業を引き継いだ年は、被相続人の「準確定申告」と相続人自身の「確定申告」の2つに分かれます。事業用資産の減価償却は、取得価額・取得時期・帳簿価額・耐用年数を引き継ぎ、償却方法だけは相続人が選び直せるのが基本です。
家業を相続で引き継いだとき、事業そのものの心配だけでなく、帳簿や確定申告をどう続けていけばよいのかという不安がついて回ります。とくに店舗や機械、車両といった事業用資産の減価償却は、引き継ぎ方を間違えると経費の計上額が変わり、税額にも影響してしまいます。
☑ 親の事業を相続で引き継いだが、店舗や機械の減価償却をどう続ければよいかわからない
☑ 取得価額や耐用年数は、亡くなった人のものを引き継ぐのか、相続時点で新しく決め直すのか迷っている
☑ 被相続人の分と自分の分、確定申告をどう分けて出せばよいか整理できていない
ここでは、相続で事業用資産を引き継いだ個人事業主の方が押さえておきたい確定申告の流れと、減価償却の引き継ぎ方を、初めての方にもわかりやすく整理します。被相続人と相続人それぞれの役割分担がつかめるようになります。
相続で事業を引き継いだときに必要になる2つの申告
亡くなった人の分を申告する「準確定申告」
個人事業主が亡くなると、その年の1月1日から亡くなった日までの所得について、相続人が代わりに申告と納税を行う必要があります。これを準確定申告といいます。準確定申告も通常の確定申告の一種で、確定申告の基本は国税庁タックスアンサーNo.2020「確定申告」で確認できます。通常の確定申告が翌年の確定申告期間(原則2月16日〜3月15日)に行うのに対し、準確定申告は相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に行うという、期限の短さが大きな特徴です。
準確定申告では、亡くなった日までの売上や経費を集計します。事業用資産の減価償却費も、その年の初めから亡くなった月までの分を月割りで計算して計上します。期限が短いため、相続が起きたら早めに帳簿の状況を確認しておくことが大切です。
事業を引き継いだ相続人自身の確定申告
事業を相続した相続人は、引き継いだ日以降に自分が稼いだ所得について、翌年の通常の確定申告で申告します。つまり1つの事業でも、その年は亡くなった人の準確定申告と引き継いだ人の確定申告という2つの申告に分かれることになります。相続人が新たに事業を始める場合の青色申告の期限は、年の途中で開業したときの青色申告の期限が参考になります。
このとき、相続人がもともと事業をしていなかった場合は、新たに事業を始めたのと同じ扱いになります。後述する開業届や青色申告の手続きが必要になるため、申告書を書く前にやっておくべき届出があることを覚えておきましょう。
申告の役割分担を整理しておく
1月1日〜亡くなった日まで → 被相続人の所得として準確定申告(4か月以内)
引き継いだ日〜12月31日まで → 相続人の所得として通常の確定申告
事業用資産の減価償却費も、この期間の区切りに合わせて月割りで分ける
同じ店舗や機械を使い続けていても、税務上は「誰の所得を計算しているのか」で期間がきっぱり分かれます。この区切りを最初に意識しておくと、その後の帳簿づけがぐっと整理しやすくなります。生前から計画的に引き継ぐ方法としては、暦年贈与と相続時精算課税で事業を引き継ぐも参考になります。
引き継いだ事業用資産の減価償却の考え方
取得価額と取得時期は被相続人から引き継ぐ
相続で事業用資産を引き継いだ場合、減価償却の計算のもとになる取得価額と取得時期は、原則として亡くなった人(被相続人)のものをそのまま引き継ぎます。相続したからといって、相続時点の時価で取得し直したことにはなりません。たとえば被相続人が300万円で買った機械であれば、相続人もその300万円を取得価額として減価償却を続けていくことになります。
これは、相続が「売買」ではなく財産をそのまま受け継ぐ行為だからです。買い直したわけではないので、取得のスタート地点も被相続人の代から続いていると考えます。
未償却残高(帳簿価額)も引き継ぐ
取得価額だけでなく、被相続人がすでに償却してきた分を差し引いた残り、つまり未償却残高(帳簿価額)も引き継ぎます。相続人は、その残った金額を出発点として、引き継いだ後の期間について減価償却を続けていきます。
そのため、相続が起きたら被相続人の青色申告決算書や減価償却の明細を早く確認し、それぞれの資産について「いくらで買って、いまの帳簿価額がいくらか」を把握しておくことが欠かせません。この資料がそろっていないと、相続人側の減価償却費を正しく計算できなくなってしまいます。
償却方法は相続人として選び直せる
取得価額や帳簿価額は引き継ぐ一方で、償却方法(定額法か定率法か)については、相続人が自分の事業として改めて選ぶことができます。被相続人が定率法を使っていたからといって、必ず同じ方法を続けなければならないわけではありません。
ただし、届出をしないままだと法律で定められた方法(個人事業の場合は原則として定額法)が適用されます。定率法など別の方法を使いたい場合は所定の届出が必要です。どちらが有利かは資産の種類や事業の状況によって変わるため、迷うときは専門家に相談すると安心です。
耐用年数と償却期間はどう扱うか
耐用年数は資産ごとの法定年数を使う
減価償却の期間を決める耐用年数は、資産の種類ごとに法律で定められた年数(法定耐用年数)を使います。建物、機械、車両、器具備品など、それぞれに年数が決まっており、相続したからといって短くなったり長くなったりするわけではありません。
注意したいのは、相続では「中古資産を取得したときの耐用年数の見積り」は使えないという点です。中古品を買った場合は残りの使用年数を見積もって短い耐用年数を使えることがありますが、相続は被相続人の計算をそのまま引き継ぐため、もとの法定耐用年数を続けて使うのが基本です。
初年度は月割りで計算する
引き継いだ年は、年の途中から相続人の事業が始まる形になります。そのため初年度の減価償却費は、引き継いだ月から12月までの月数に応じて月割りで計算します。準確定申告側でも1月から亡くなった月までの分を月割りで計上するため、両者を合計するとその資産の年間の償却費がおおむね無理なく分けられます。
少額の資産や一括償却資産の扱い
取得価額が一定額未満の少額な備品などは、購入時に全額を経費にできる場合があります。ただしこれらは原則として「取得したとき」の処理であり、すでに被相続人の代で経費にし終えているものは、相続人側で新たに償却することはありません。判断が難しい資産は明細を確認しながら一つずつ整理しましょう。
申告前に済ませておきたい届出と手続き
開業届と青色申告承認申請書
これまで事業をしていなかった相続人が事業を引き継ぐ場合は、税務署に開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)を提出します。あわせて、青色申告の特典(最大65万円の青色申告特別控除など)を受けたい場合は、青色申告承認申請書の提出が必要です。一定の要件を満たすと納税が猶予される個人版事業承継税制の使いどころは、個人版事業承継税制と節税でくわしく解説しています。
青色申告承認申請には提出期限があり、相続による事業承継の場合は被相続人が青色申告だったかどうかなどによって期限の扱いが変わります。期限を過ぎるとその年は青色申告ができなくなることもあるため、相続が起きたらできるだけ早く確認しておきましょう。被相続人の青色申告の承認は、相続人にそのまま引き継がれるわけではない点に注意が必要です。
被相続人の廃業に関する届出
亡くなった人については、事業を行っていた事実が終わることになるため、廃業に関する届出が必要になります。準確定申告とあわせて、必要な届出を漏れなく行うようにします。給与を支払う従業員がいた場合や、消費税の課税事業者だった場合は、それぞれに対応した届出も検討が必要です。
帳簿づけと資料整理のコツ
被相続人の帳簿と資料をそろえる
相続後の確定申告をスムーズに進める最大のポイントは、被相続人の帳簿や資料を早くそろえることです。具体的には次のようなものが手がかりになります。
直近の青色申告決算書・収支内訳書と、添付されている減価償却の明細
固定資産台帳や、資産の購入時の契約書・請求書・領収書
取引先ごとの売掛金・買掛金の残高がわかる資料
これらがそろっていれば、各資産の取得価額・帳簿価額・耐用年数を確認でき、相続人側の減価償却の計算につなげられます。逆に資料が散らばっていると、ここでつまずいて申告全体が遅れてしまいます。
引き継ぎの「区切り日」を決めて記帳する
準確定申告と相続人の申告を正しく分けるには、どの取引までが被相続人の分で、どこからが相続人の分かを明確にしておく必要があります。亡くなった日を区切りに、売上・仕入・経費を分けて記帳していくと、後から集計し直す手間を減らせます。
無理に一人で抱え込まない
相続の手続きは、確定申告以外にも相続税や名義変更など、やるべきことが一度に押し寄せます。記帳や申告書の作成は外部の力を借り、自分は事業の立て直しに集中するという分担も、現実的で賢い選択肢です。実際、確定申告の代行を利用して負担を減らす方も少なくありません。
よくある質問
Q. 相続した資産は、相続時点の時価で減価償却をやり直すのですか?
いいえ、原則としてやり直しません。相続で引き継いだ事業用資産は、被相続人の取得価額・取得時期・帳簿価額をそのまま引き継いで減価償却を続けます。時価で取得し直したことにはならない点が、購入した場合との大きな違いです。被相続人の減価償却の明細をもとに計算を続けましょう。
Q. 被相続人が青色申告だったので、私もそのまま青色申告でよいですか?
被相続人の青色申告の承認は、相続人に自動では引き継がれません。これまで事業をしていなかった相続人が青色申告をするには、開業届に加えて青色申告承認申請書を期限内に提出する必要があります。期限を過ぎるとその年は白色申告になることもあるため、早めの手続きをおすすめします。
Q. 準確定申告と自分の確定申告は、同じ時期にまとめて出せますか?
提出時期は異なります。準確定申告は相続の開始を知った日の翌日から4か月以内が期限で、相続人自身の確定申告は翌年の通常の確定申告期間(原則2月16日〜3月15日)に行います。期限の短い準確定申告を先に意識し、必要な資料の確認から始めると進めやすくなります。
まとめ|引き継ぐものと選び直せるものを区別する
相続で事業用資産を引き継いだときの確定申告は、「被相続人の準確定申告」と「相続人自身の確定申告」の2つに分かれること、そして減価償却では取得価額・取得時期・帳簿価額・耐用年数は引き継ぎ、償却方法は選び直せる、という区別を押さえることが要点です。引き継ぐものと選べるものを整理できれば、複雑に見える手続きも一つずつ前に進められます。
とはいえ、準確定申告の4か月という短い期限のなかで、被相続人の帳簿を読み解き、資産ごとの減価償却を計算し、自分の開業手続きまで進めるのは、決して軽い作業ではありません。相続そのものの対応も重なる時期だからこそ、記帳や申告を任せるという選択も検討する価値があります。
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【本記事の監修】
領収書丸投げドットコム 責任者 山下
個人事業主・フリーランス専門の記帳代行サービス「領収書丸投げドットコム」(運営:それいけ株式会社)の責任者として、日々の記帳代行・確定申告サポートの実務知見に基づき本記事の内容を確認しています。本記事は、国税庁など公的機関の公表情報をもとに作成しています。








