事業承継・引退を見据えた個人事業主の節税と資金準備を解説
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税金

事業承継・引退を見据えた個人事業主は、廃業か承継かで税金も資金準備も大きく変わります。廃業年の税金を把握し、小規模企業共済などで老後資金を備え、引き継ぎ時の贈与税・譲渡所得に早めに手を打つことが要点です。
長年続けてきた事業も、いつかは次の世代へ引き継ぐか、自分の代で区切りをつける日がやってきます。廃業して店じまいするのか、子どもや従業員に引き継ぐのか、法人にしてから譲るのかによって、準備の中身は大きく異なります。準備不足のまま引退の時期を迎えると、想定外の税負担や資金不足に直面しかねません。
☑ そろそろ引退を考えているが、事業をたたむ・引き継ぐときの税金がどうなるのか見当もつかない
☑ 廃業しても老後の生活費が不安で、引退後の資金準備を何から始めればよいかわからない
☑ 子どもや従業員に事業を引き継ぎたいが、設備や在庫の引き渡しで思わぬ税金がかかると聞いて心配だ
ここでは、廃業・親族承継・第三者承継それぞれの違いから、退職金代わりに使える制度、引き継ぎ時の在庫や設備の扱いまで、引退準備の全体像を整理していきます。
個人事業主の「引退」には3つのかたちがある
廃業・親族承継・第三者承継で考え方が変わる
個人事業主が事業に区切りをつける方法は、大きく3つに分けられます。廃業(自分の代で事業を終わらせる)、親族承継(子どもや配偶者など家族に引き継ぐ)、第三者承継(M&Aなど)(従業員や外部の人へ譲る)の3つです。どの道を選ぶかによって、必要な手続きも税金のかかり方も異なります。
大切なのは、引退の何年も前から「自分はどのかたちを目指すのか」をイメージしておくことです。子どもに継がせたいなら早めに事業へ関わってもらう時間が必要ですし、第三者へ譲るなら決算書をきれいに整え、事業の価値を高めておく準備が欠かせません。
個人事業の承継は「資産・負債の引き継ぎ」になる
法人であれば株式を譲ることで会社ごと引き継げますが、個人事業の場合は事業を丸ごと譲るという概念がありません。実際には、後継者がいったん新たに開業し、先代から事業用の資産(設備・在庫・売掛金など)や負債、取引先や屋号を引き継ぐ形をとります。このとき、資産をどう引き渡すか(贈与なのか、売買なのか)によって、贈与税や所得税の扱いが変わってきます。「タダで譲る」つもりでも税金がかかる場面があるため、引き継ぎ方の設計は早めに専門家へ相談しておくと安心です。
引退・廃業の年にかかる税金を押さえる
廃業した年も確定申告は必要
事業をやめた年であっても、その年の1月1日から廃業日までの所得については、翌年の確定申告が必要です。廃業したからといって申告が不要になるわけではない点に注意しましょう。確定申告の基本的な流れは、国税庁タックスアンサーNo.2020「確定申告」で確認できます。廃業時には税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出し、青色申告をしていた方は「所得税の青色申告の取りやめ届出書」もあわせて出します。
また、消費税の課税事業者だった方は「事業廃止届出書」の提出も必要です。届出関係は提出期限が定められているものもあるため、廃業を決めたら早めにリストアップして対応することをおすすめします。
在庫・設備の処分で利益が出ることもある
引退・廃業のタイミングでは、残った在庫を売り切ったり、事業用の車や機械を売却したりする場面が出てきます。在庫を売れば売上として所得に反映されますし、設備を帳簿価額より高く売れば、その差額が所得となって課税対象になります。逆に、まだ使える資産を自分用に転用する「自家消費」も、一定のルールで収入として扱う必要があります。廃業・縮小にともなう資産処分の税務は、事業縮小・撤退時の節税もあわせて確認しておくと安心です。
残った商品在庫を販売・処分したときの売上計上
事業用車両・機械などを売却したときの譲渡損益
事業用資産を自分用に転用したときの自家消費の計上
引退の年は、こうした臨時の収入が重なって所得が膨らみやすい年でもあります。後述する小規模企業共済の受け取りなどとタイミングが重なると、思った以上に税額が増えることもあるため、できれば前もって全体の見通しを立てておきたいところです。なお、店舗の原状回復費用など廃業に直接かかった費用は、一定の要件のもとで必要経費として扱える場合があります。領収書や契約書はきちんと保管しておきましょう。
退職金代わりの「老後資金」を制度で準備する
小規模企業共済は個人事業主の退職金制度
会社員と違い、個人事業主には退職金がありません。その代わりとなるのが、小規模企業共済です。毎月の掛金を積み立て、廃業や引退のときにまとまった共済金を受け取れる制度で、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営しています。受け取り方による税負担の違いは、小規模企業共済の節税シミュレーションで試算の考え方を紹介しています。
掛金は全額が所得控除の対象になるため、現役のうちは毎年の節税につながります。さらに、廃業・引退時に受け取る共済金は、一括で受け取れば退職所得、分割で受け取れば公的年金等の雑所得として扱われ、いずれも通常の事業所得より税負担が軽くなりやすい仕組みです。「現役中は節税、引退時はまとまった老後資金」という、引退を見据えた節税策の柱になる制度といえます。
iDeCoで老後資金を上乗せする
個人型確定拠出年金(iDeCo)も、個人事業主の老後資金づくりに役立つ制度です。掛金が全額所得控除になり、運用益も非課税で、受け取り時にも退職所得控除や公的年金等控除を使える点が特長です。小規模企業共済とiDeCoは併用できるため、両方を活用して引退後の備えを厚くしている方も少なくありません。ただし、iDeCoは原則として60歳まで引き出せないため、当面の事業資金や生活防衛資金とは切り分け、老後のための長期の積み立てとして位置づけましょう。
受け取り方とタイミングで手取りが変わる
小規模企業共済やiDeCoは、受け取り方(一時金か年金か)や受け取る年によって税負担が変わります。たとえば、廃業による臨時の所得が大きい年に共済金も一括で受け取ると、所得が一気に膨らんでしまうことがあります。受け取り方の最適解は人それぞれ異なるので、引退の数年前には一度シミュレーションしておくことをおすすめします。
親族・第三者へ引き継ぐときの税金と節税
親族へ譲るときは贈与税に注意
子どもなど親族に事業用資産を無償で引き継ぐ場合、その資産の価額によっては贈与税がかかります。設備や在庫、車両などをまとめて譲ると、それなりの金額になることもあるため、「家族だからタダで」と安易に進めると、後継者に思わぬ税負担が生じることがあります。
対策としては、暦年贈与の基礎控除の範囲内で数年かけて少しずつ引き継ぐ、あるいは適正な対価で売買する形にするなど、引き継ぎ方を工夫する余地があります。一定の要件を満たすと贈与税・相続税の納税が猶予される個人版事業承継税制のような制度もあり、要件や使いどころは個人版事業承継税制と節税でくわしく解説しています。親族承継を考えている方は、早めに制度の有無を確認しておくとよいでしょう。
第三者へ譲るときは譲渡所得が生じる
従業員や外部の人へ事業を有償で譲る場合は、譲渡した資産に応じて譲渡所得や事業所得などが生じます。営業権(のれん)を含めて譲渡するケースもあり、その対価の扱いは内容によって異なります。金額が大きくなりやすい分、税額への影響も大きいため、譲渡の枠組みづくりの段階から専門家に入ってもらうのが望ましい場面です。
取引先・許認可・帳簿の引き継ぎも忘れずに
事業承継というと税金に目が向きがちですが、実務では取引先との契約、業種によっては必要な許認可、帳簿や請求書などの引き継ぎも重要です。後継者が困らないよう、過去の取引履歴や経費の処理ルールを整理して渡しておくと、引き継ぎ後の経理がスムーズになります。日頃から帳簿をきれいに保っておくことが、結果として円滑な承継につながります。
引退を見据えて「今から」やっておきたい準備
逆算でスケジュールを立てる
引退や承継は、思い立ってすぐに完了できるものではありません。小規模企業共済やiDeCoは加入期間が長いほど効果が高まりますし、親族承継も時間をかけて引き継ぐほど税負担を抑えやすくなります。「いつ頃引退したいか」から逆算して、何を・いつまでに準備するかをざっくりとでも書き出しておきましょう。
5年以上前:小規模企業共済・iDeCoの加入、後継者の選定・育成
2〜3年前:資産・負債の棚卸し、引き継ぎ方法(贈与か売買か)の検討
直前期:廃業・承継の届出準備、共済金の受け取り方のシミュレーション
帳簿と決算書を「見せられる状態」にしておく
第三者への承継を考えるなら、決算書がきれいに整っていることが事業の価値を左右します。親族承継や廃業の場合でも、資産の状況が帳簿で正確に把握できていれば、引き継ぎや税金の計算がスムーズに進みます。日々の記帳を後回しにせず、いつでも現状を説明できる状態にしておくことが、引退準備の土台になります。いつでも現状を説明できる帳簿を保つのが難しいときは、記帳代行の活用も選択肢になります。
よくある質問
Q. 廃業した年は、税金が安くなりますか?それとも高くなりますか?
ケースによります。在庫の売り切りや設備の売却、共済金の受け取りなどが重なると、その年の所得が膨らんで税額が増えることがあります。一方で、廃業に伴う費用を経費にできる場合や、所得が少ない年であれば税負担は軽くなります。「廃業=安くなる」とは限らないため、廃業の年に何が収入・経費として発生しそうかを前もって洗い出しておくことが大切です。
Q. 子どもに事業を継いでもらう予定です。今からできることはありますか?
まずは、後継者である子どもに少しずつ事業へ関わってもらい、取引先や業務の流れを引き継いでいくことが第一歩です。税金面では、設備や在庫をどう引き継ぐか(贈与か売買か)で負担が変わるため、暦年贈与を活用して数年かけて引き継ぐなどの方法を、早めに検討しておくとよいでしょう。事業承継を支援する税制が使えるかどうかも、専門家に確認しておくと安心です。
Q. 小規模企業共済にまだ入っていません。引退間近でも入る意味はありますか?
加入期間が長いほど有利になる制度ですが、掛金が全額所得控除になるという節税メリットは加入したその年から受けられます。ただし、加入後すぐの解約や、加入期間が短い場合の受け取りでは思ったほど効果が出ないこともあります。ご自身の引退時期との兼ね合いで効果が変わるため、加入を迷う場合は一度シミュレーションしたうえで判断することをおすすめします。
結論:引退準備は「早く始めるほど」選択肢が増える
個人事業主の引退・事業承継は、廃業・親族承継・第三者承継のどれを選ぶかで、税金も資金準備も大きく変わります。廃業の年にかかる税金を把握し、小規模企業共済やiDeCoで老後資金を準備し、引き継ぐなら贈与税や譲渡所得に気を配る——こうした準備は、いずれも時間をかけるほど選択肢が広がり、税負担も抑えやすくなります。引退を意識し始めたそのときが、準備を始める一番のタイミングです。
引退準備を進めるうえでも、土台になるのは日々の正確な記帳と整った帳簿です。資産の状況がいつでも把握できていれば、共済金の受け取り方の検討も、後継者への引き継ぎもぐっとスムーズに進みます。本業を続けながら帳簿づけまで完璧にこなすのは、なかなか大変なことです。
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【本記事の監修】
領収書丸投げドットコム 責任者 山下
個人事業主・フリーランス専門の記帳代行サービス「領収書丸投げドットコム」(運営:それいけ株式会社)の責任者として、日々の記帳代行・確定申告サポートの実務知見に基づき本記事の内容を確認しています。本記事は、国税庁など公的機関の公表情報をもとに作成しています。








