不動産所得の確定申告完全ガイド|家賃収入の経費・減価償却・青色申告
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確定申告

不動産所得の確定申告は、①所得区分の判定、②事業的規模かどうか、③修繕費と資本的支出の線引きの3点でほぼ決まります。家賃収入に含めるもの、経費にできるもの、建物の減価償却の計算までを一続きで整理しました。
不動産所得は、給与や事業の所得と違って「通帳に入った金額=収入」とはならない場面が多い分野です。管理会社が手数料を差し引いて振り込む、礼金や更新料が不定期に入る、敷金は預かっているだけ——こうした事情を整理しないまま集計すると、収入も経費も実態からずれてしまいます。まずは収入と経費の輪郭をはっきりさせるところから始めましょう。
☑ 家賃が入る口座の通帳は見ているが、確定申告書のどの欄に何を書けばいいのか自信がない
☑ 外壁の塗り替えや設備の交換を「修繕費」にしていいのか、減価償却すべきなのか毎回迷う
☑ 赤字が出た年に給与や事業の所得と相殺できると聞いたが、どこまで通算できるのか分からない
ひとつでも当てはまるなら、気になる見出しから読み進めてください。細かい手順は、テーマ別の記事へのリンクからそのまま深掘りできるようにしています。
不動産所得とは?事業所得・雑所得・譲渡所得とどう違う?
不動産所得とは、土地や建物などの不動産の貸付けによって生じる所得です。計算式は「総収入金額-必要経費=不動産所得の金額」で、国税庁タックスアンサーNo.1370「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」では、①土地・建物などの不動産の貸付け、②借地権など不動産の上に存する権利の設定および貸付け、③船舶や航空機の貸付けの3つが不動産所得に当たるとされています(2026年8月時点)。物件をいくつ持っていても、貸付けである限り原則として不動産所得です。
「貸すだけ」か「サービスを提供するか」で区分が変わる
区分の分かれ目は、収入の対価が場所の提供に対するものか、役務(サービス)の提供に対するものかという点です。空き地を月極で貸すだけなら不動産所得ですが、同じ土地でも時間貸し駐車場として管理・保管の責任を負うなら、収入の中身はサービス業に近づき、事業所得または雑所得として扱われます。賄い付きの下宿や、清掃・寝具の交換まで行う民泊も同じ理屈です。
貸付けの形態ごとに、原則的な所得区分を一覧にすると次のようになります。
収入の形態 | 原則的な所得区分 | 判断のポイント |
|---|---|---|
アパート・マンション・戸建ての賃貸 | 不動産所得 | 棟数・室数が多くても区分は変わらない |
月極駐車場(土地を貸すだけ) | 不動産所得 | 車両の保管責任を負わないいわゆる青空駐車場 |
時間貸し駐車場(管理・保管を伴う) | 事業所得または雑所得 | 設備の運営と役務の提供が収入の主体 |
民泊(宿泊サービスの提供) | 事業所得または雑所得 | 継続性・規模・提供する役務の程度で判断 |
屋上・外壁の看板やアンテナの設置料 | 不動産所得 | 不動産の一部を使わせる対価にあたる |
貸家・貸地の売却による利益 | 譲渡所得 | 分離課税。不動産所得には含めない |
とくに間違えやすいのが最後の行です。賃貸していた物件を売った年は、家賃部分は不動産所得、売却益は譲渡所得として別々に計算します。売却代金を不動産所得の収入に混ぜてしまうと、税額の計算方法そのものが変わってしまうので注意してください。
副業の家賃収入は雑所得にならない?
会社員が副業でワンルームを1室貸している場合でも、所得区分は雑所得ではなく不動産所得です。副業=雑所得というイメージが強いためここは誤解が多いところですが、不動産の貸付けは規模の大小にかかわらず不動産所得に区分されます。区分の考え方そのものを整理したい方は事業所得と雑所得の違いと判断基準で確認できます。
一方、民泊や時間貸し駐車場は不動産所得から外れることがあり、外れると青色申告特別控除の扱いや経費の範囲も変わります。物件を宿泊用途に転用している方は、民泊・駐車場収入の所得区分と経費の考え方を先に押さえておくと判断を誤りません。
不動産所得の申告そのものが初めてで、まずは全体像を短時間でつかみたい場合は、入門編として不動産所得の確定申告の基本と流れを読んでから本ガイドに戻ると理解が早くなります。
事業的規模(5棟10室)はどう判定する?規模で何が変わる?
不動産所得には、同じ所得区分の中に「事業的規模」と「事業的規模でないもの」という2つの階層があります。判定の目安が、独立家屋はおおむね5棟以上、貸間・アパート等は独立した室数がおおむね10室以上という、いわゆる5棟10室基準です。この線を超えるかどうかで、青色申告特別控除の上限や専従者給与の可否まで変わります。
5棟10室の判定の目安
国税庁タックスアンサーNo.1373「事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」では、建物の貸付けについて、貸間・アパート等はおおむね10室以上、独立家屋の貸付けはおおむね5棟以上であれば、原則として事業として行われているものとして取り扱うとされています(2026年8月時点)。形式基準の目安を整理すると次のとおりです。
貸付けの形態 | 事業的規模とされるおおよその目安 | 補足 |
|---|---|---|
アパート・マンション・貸間 | 独立した室数がおおむね10室以上 | 入居中か空室かは問わず、貸せる状態の室数で数える |
独立家屋(戸建て) | おおむね5棟以上 | 1棟に複数世帯が住む長屋などは実態で判断 |
戸建てと共同住宅を併有する場合 | 戸建て1棟を2室に換算して合計10室以上 | 実務で広く使われる換算方法 |
駐車場 | 5台分を1室に換算する考え方が使われる | 法令に明文の基準はなく、実質判断の材料のひとつ |
土地の貸付け | 契約件数・賃料の規模などから実質判断 | 形式基準になじまないため個別性が高い |
注意したいのは、5棟10室があくまで「おおむね」の形式基準だという点です。これに満たなくても、賃貸収入の規模、管理にかけている手間、他に本業があるかどうかといった事情から、実質的に事業と認められる余地は残ります。逆に、室数だけ形式的に満たしていても、名義を分散させただけで実態が伴わなければ否定されることもあります。境界線上にいる方は、判定の根拠を残しておくことが大切です。
事業的規模になると何が有利になる?
事業的規模と認められると、税務上の扱いが5つの点で有利になります。主な違いを比較すると次のとおりです。
項目 | 事業的規模 | 事業的規模でない |
|---|---|---|
青色申告特別控除 | 最高65万円(要件を満たす場合) | 最高10万円 |
青色事業専従者給与・事業専従者控除 | 適用できる | 適用できない |
取壊し・除却などの資産損失 | 全額を必要経費に算入できる | その年の不動産所得の金額が限度 |
家賃の貸倒損失 | 回収不能が確定した年の必要経費 | 収入に計上した年分の所得計算をやり直す |
延納に係る利子税 | 不動産所得に対応する部分を必要経費にできる | 必要経費にできない |
金額のインパクトが最も大きいのは、青色申告特別控除の65万円と10万円の差です。仮に所得税と住民税を合わせた税率が20%なら、この差だけで年11万円(55万円×20%)の違いになります。専従者給与を使えるかどうかも含めると、9室と10室では手取りが十数万円変わることも珍しくありません。
65万円控除を受けるには規模だけでは足りない
事業的規模であれば自動的に65万円が引けるわけではありません。複式簿記による記帳、貸借対照表と損益計算書の添付、法定期限内の申告に加えて、e-Taxによる電子申告または電子帳簿保存のいずれかを満たす必要があります。これらを満たさない場合は55万円、複式簿記でなければ10万円というように段階的に下がります。要件の中身と、電子帳簿保存を選ぶ場合の手続きは青色申告特別控除65万円の要件で確認してください。
また、青色申告をするには原則としてその年の3月15日まで(新規開業なら開業から2か月以内)に青色申告承認申請書を提出しておく必要があります。物件を買ってから慌てて申請しても、その年分には間に合わないケースがあるため、購入を決めた段階で提出時期を確認しておくのが安全です。
家賃収入はどこまでが「収入」?礼金・更新料・共益費・敷金の扱い
不動産所得の総収入金額に含めるのは、家賃だけではありません。礼金、更新料、共益費、名義書換料、看板の設置料なども収入です。一方、退去時に返すことになっている敷金・保証金は預かっているだけなので収入にはなりません。返還を要しないことが確定した部分だけが、確定した年の収入になります。
いつの年の収入になる?計上時期のルール
家賃の収入計上時期は、契約や慣習によって支払日が定められているものはその支払日、定められていないものは実際に支払いを受けた日が原則です。つまり「入金があった日」ではなく「契約上いつ払うことになっているか」で決まります。
具体例で考えます。契約で「翌月分の家賃を前月末日までに支払う」と定めている物件では、2026年12月末日に受け取る家賃は2027年1月分ですが、支払日が2026年12月末なので2026年分の収入です。逆に、12月分の家賃が滞納されて翌年3月に入金された場合でも、支払日が12月中に到来していれば2026年分の収入に含めます。未収家賃を落としたまま申告すると、後から収入計上漏れを指摘される典型パターンになります。
敷金は少し複雑です。全額返還する契約なら、預かった時点では収入にせず、帳簿には預り金(負債)として残します。関西でよくある敷引き特約のように、契約時点で一定額を返さないことが決まっているなら、その部分は契約の効力が発生した年の収入です。退去時の原状回復費用に充当して返還額が確定したなら、確定した年の収入とします。
管理会社からの入金額をそのまま収入にしていませんか
実務で最も多いつまずきが、管理会社が家賃から管理手数料や修繕費を差し引いて振り込んでくるケースです。通帳に入った差引後の金額を収入として記帳すると、収入も経費も同額だけ小さくなります。所得金額は同じでも、収入金額が実態とずれるため、青色申告決算書の数字が正しくなくなり、消費税の判定や融資審査で使う数字にも影響します。
正しくは、管理会社から届く精算書(家賃入金明細)に沿って、家賃総額を収入に計上し、差し引かれた管理手数料や立替修繕費を必要経費に計上します。記帳代行の現場でも、不動産をお持ちの方の資料で時間がかかるのはまさにこの突合作業です。通帳の入金額と精算書の家賃総額が一致しないのが通常の姿なので、毎月の精算書を必ず保管しておいてください。
共益費も同じ考え方です。家賃と別建てで受け取る共益費は収入に含め、実際に支払った共用部の電気代・清掃費・エレベーター保守料は経費に計上します。差額だけを収入にする処理はしません。水道料金を大家がまとめて払い、入居者から実費相当額を受け取っている場合も、受取額は収入、支払額は経費です。
不動産所得の経費はどこまで認められる?主要科目チェックリスト
必要経費になるのは、その不動産の貸付けによる収入を得るために直接必要な支出です。減価償却費、修繕費、管理委託料、損害保険料、租税公課、借入金の利息が主要な柱になります。逆に、借入金の元本返済、所得税・住民税、自宅として使っている部分の費用は経費になりません。
経費になるもの・ならないものの一覧
迷いやすい項目を、可否と注意点で整理すると次のようになります。
項目 | 経費 | 注意点 |
|---|---|---|
建物・附属設備の減価償却費 | なる | 土地は減価償却しない。取得価額を土地と建物に按分する |
修繕費 | なる | 資本的支出に当たる部分は減価償却する |
管理委託料・管理費・修繕積立金 | なる | 修繕積立金は一定の要件を満たす場合に支払時経費とする取扱いがある |
固定資産税・都市計画税・不動産取得税・印紙税 | なる | 建物取得時の登録免許税等は取得価額に含める選択もある |
個人事業税 | なる | 事業的規模で課税された場合。所得税・住民税は経費にならない |
借入金の利息 | なる | 元本の返済部分は経費にならない。土地分は損益通算に制限あり |
損害保険料(火災・地震) | なる | 数年分を一括払いした場合はその年分に対応する額のみ |
入居者募集の広告料・仲介手数料 | なる | 賃貸に関するもの。物件購入時の仲介手数料は取得価額に含める |
物件の見回り・打合せの交通費 | なる | 記録を残す。私用と兼ねる場合は按分する |
借入金の元本返済 | ならない | 現金は出ていくが経費ではない。所得と手残りがずれる主因 |
自宅部分・自己使用部分の費用 | ならない | 自宅併用なら床面積等で按分する |
生計を一にする親族へ支払う地代・給与 | ならない | 青色事業専従者給与など一定のものを除く |
見落としやすいのは、賃貸に出す前と出した後で費用の性格が変わる点です。購入時の仲介手数料・登記費用・不動産取得税のうち、取得価額に含めるものは経費ではなく減価償却を通じて費用化します。一方、購入後に入居者を募集するための広告料や、退去のたびに発生する仲介手数料は、その年の経費です。
借入金の利息は「元本と分ける」のが第一歩
金融機関から届く返済予定表には、毎回の返済額が元本と利息に分けて記載されています。経費になるのは利息だけで、元本は借入金という負債が減るだけの取引です。返済額の全額を経費にしてしまうと、所得を大幅に過少申告することになります。仕訳の型と、返済予定表のどの数字を使えばよいかは借入金の元本と利息の仕訳の違いにまとめています。
物件を購入した年は、団体信用生命保険料、ローン事務手数料、保証料の扱いも問題になります。保証料を一括で支払った場合は、返済期間にわたって按分するのが原則で、繰上返済で戻ってきた分はその年の収入から控除します。細かい話に見えますが、金額が数十万円になることもあるため、返済予定表と一緒に契約書類を保管しておきましょう。
物件が増えて仕訳の本数が膨らみ、精算書と通帳の突合だけで週末がつぶれてしまう——そういう段階に来たら、資料を送るだけで帳簿を作ってもらう記帳代行という選択肢もあります。減価償却や按分の判断が絡む不動産所得は、独学でやり直すより、型を作ってもらってから引き継ぐほうが結果的に早いことも多い分野です。
建物の減価償却はどう計算する?耐用年数と中古物件の簡便法
建物や附属設備は、取得した年に全額を経費にできません。法定耐用年数にわたって少しずつ費用化するのが減価償却です。平成10年4月1日以後に取得した建物は定額法のみ、平成28年4月1日以後に取得した建物附属設備・構築物も定額法のみとされており、選択の余地はありません。土地は時の経過で価値が減らないため、そもそも減価償却の対象外です。
まず土地と建物を分ける
売買契約書に土地と建物の内訳が書かれていればそれを使います。書かれていない場合は、契約書に記載された消費税額から建物価格を逆算する方法(消費税は建物にのみ課されるため、消費税額÷消費税率=建物の税抜価格)や、固定資産税評価額の比率で按分する方法が使われます。土地の割合を大きくすると減価償却費が減り、建物の割合を大きくすると増えるため、按分の根拠は必ず書面で残しておいてください。
建物本体と建物附属設備(給排水設備、電気設備、エレベーターなど)を分けられる場合は、分けたほうが早く費用化できます。附属設備の耐用年数は建物本体より短いためです。ただし、区分の根拠がない状態で恣意的に分けると否認の対象になるため、新築時の工事内訳書など裏づけのある資料が必要です。
新築と中古で耐用年数はどう変わる?
住宅用建物の法定耐用年数は、木造22年、軽量鉄骨造(骨格材の肉厚3mm超4mm以下)27年、重量鉄骨造(同4mm超)34年、鉄筋コンクリート造47年が代表的です。中古物件を買った場合は、経過年数に応じて短い耐用年数を使える簡便法があります。
法定耐用年数の全部を経過している場合 → 法定耐用年数×20%
一部を経過している場合 → (法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%
いずれも1年未満の端数は切り捨て、2年未満になるときは2年とする
数値で確認します。築15年の木造アパート(法定22年)なら、(22-15)+15×0.2=7+3=10年です。建物価格が800万円であれば、定額法の償却率0.100を掛けて年80万円が減価償却費になります。新築で22年(償却率0.046)だった場合の年36.8万円と比べると、初期の経費は2倍以上です。中古の木造が節税目的で選ばれやすいのはこの仕組みによります。
築25年の木造のように法定耐用年数を全部経過している場合は、22×0.2=4.4→4年です。鉄筋コンクリート造で築10年なら、(47-10)+10×0.2=37+2=39年(償却率0.026)となります。
ただし、短い耐用年数は「早く経費にできる」だけで、経費にできる総額が増えるわけではありません。償却が終わった翌年から経費が一気に減り、所得と税額が跳ね上がるという裏側があります。減価償却の考え方そのものに不安がある方は、減価償却の基本と定額法・定率法の選び方から確認すると全体像がつかめます。
修繕費と資本的支出はどこで線引きする?判断フロー
その年の経費にできる修繕費と、資産計上して減価償却する資本的支出の分かれ目は、原状回復か価値の増加かという性質で判断します。性質で判断がつかないときのために、20万円未満・おおむね3年以内の周期・60万円未満・前年末取得価額のおおむね10%以下といった金額基準が用意されています。
5ステップの判断フロー
国税庁タックスアンサーNo.1379「修繕費とならないものの判定」の内容を、上から順に当てはめる形に並べ替えると次のようになります(2026年8月時点)。
① 壊れた箇所の原状回復や、通常の維持管理のための支出か → はい なら修繕費で確定
② 増築・改造・用途変更など、明らかに使用可能期間を延ばす、または価値を高める支出か → はい なら資本的支出で確定
③ ①②で判断がつかない場合、その一つの修理・改良の金額が20万円未満か、またはおおむね3年以内の周期で繰り返される修理・改良か → はい なら修繕費
④ ③でも該当しない場合、その金額が60万円未満か、またはその資産の前年12月31日の取得価額のおおむね10%相当額以下か → はい なら修繕費
⑤ ①〜④のいずれにも当たらない → 資本的支出として資産計上し、減価償却する
身近な例に当てはめてみます。エアコンが故障し、同程度の機種に15万円で交換した場合は、③の20万円未満に該当し修繕費です。一方、和室を洋室に変更するリフォームに80万円かけた場合は、用途の変更で価値が高まるため②に当たり資本的支出になります。判断が割れやすいのが外壁塗装で、定期的な塗り替えとして行うなら修繕費寄り、断熱塗料への変更などで機能が向上するなら資本的支出寄りという整理になります。
金額基準を使う場合、比較の対象は「その資産の前年12月31日の取得価額」であって、その年の家賃収入や修繕費の合計ではありません。建物の取得価額が2,000万円なら、10%相当額は200万円です。判定に使った数字と考え方をメモに残しておくと、後から説明を求められたときに困りません。
1回の工事を分けて発注すれば修繕費になる?
なりません。判定は「一つの修理・改良」ごとに行うため、実質的に一体の工事を意図的に複数の請求書に分割しても、合計額で判断されるのが原則です。同じ時期に同じ業者へ発注した一連の工事は、まとめて1件と見るのが自然な解釈になります。
逆に、本来は別々の工事なのに1枚の請求書にまとまっているために資本的支出と判定されそうな場合は、見積書の内訳を残しておくことで区分できることがあります。工事の性質ごとに金額が分かる資料をそろえておくのが最も現実的な備えです。判定の詳しい考え方と具体例は修繕費と資本的支出の違いと金額基準で掘り下げています。
赤字は損益通算できる?土地取得の負債利子には制限がある
不動産所得が赤字になった年は、給与所得や事業所得など他の黒字の所得と相殺できます。これが損益通算です。ただし例外があり、土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分は、損益通算の対象から除かれます。別荘など趣味・娯楽・保養の用に供する不動産の貸付けによる損失も対象外です。
土地分の利子はなぜ切り捨てられる?
国税庁タックスアンサーNo.1391「不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」では、不動産所得の損失のうち、必要経費に算入した土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分の金額は損益通算できないとされています(2026年8月時点)。値上がり益を狙った土地の取得を、給与所得との相殺で有利にすることを防ぐための仕組みです。
計算例で確認します。ある年の不動産所得が50万円の赤字で、その中に土地取得に対応する借入金利子が18万円含まれているとします。この場合、損益通算できるのは50万円-18万円=32万円までです。給与所得が500万円なら、468万円まで下げられる計算になります。赤字全額が使えると思って住民税や国民健康保険料を見込んでいると、想定と数万円単位でずれることがあります。
借入金が土地と建物の両方の取得に充てられている場合は、その借入金がまず建物の取得の対価に充てられたものとして計算する取扱いがあります。建物価格が借入額を上回っていれば、土地対応分の利子はゼロになるという結論もあり得ます。金額が大きくなりやすい論点なので、契約書と返済予定表を持って税務署や税理士に確認しておくと安心です。損益通算の全体像は損益通算の仕組みと相殺できる所得の順序で整理しています。
家賃収入から手残りはいくら残る?数値シミュレーション
会計上の所得と、実際に手元に残る現金は一致しません。区分マンション2室を貸している方を例に、収入・所得・キャッシュフローを並べて確認します。前提は、家賃が1室8.5万円、建物部分の取得価額1,600万円(鉄筋コンクリート造・新築・耐用年数47年・償却率0.022)、借入2,000万円・金利1.8%、年間返済額96万円(元本61万円+利息35万円)とします。
区分 | 項目 | 金額 |
|---|---|---|
収入 | 家賃 8.5万円×2室×12か月 | 204.0万円 |
収入 | 更新料(1室分) | 8.5万円 |
収入 | 総収入金額 | 212.5万円 |
経費 | 減価償却費 1,600万円×0.022 | 35.2万円 |
経費 | 借入金利息 | 35.0万円 |
経費 | 管理委託料(家賃の5%) | 10.2万円 |
経費 | 管理費・修繕積立金 1.2万円×2室×12か月 | 28.8万円 |
経費 | 固定資産税・都市計画税 | 14.0万円 |
経費 | 損害保険料 | 1.5万円 |
経費 | 修繕費(給湯器の部品交換ほか) | 6.0万円 |
経費 | その他(交通費・通信費・書籍) | 3.0万円 |
経費 | 必要経費合計 | 133.7万円 |
所得 | 不動産所得(212.5-133.7) | 78.8万円 |
青色申告特別控除10万円(事業的規模でないため最高10万円)を引くと、課税の対象になるのは68.8万円です。ここに他の所得と合算した税率がかかります。仮に所得税と住民税を合わせて20%とすると、税額はおよそ13.8万円です。
次に現金の動きを見ます。入金は212.5万円、出金はローン返済96.0万円(元本61.0+利息35.0)、管理委託料10.2万円、管理費・修繕積立金28.8万円、固定資産税等14.0万円、保険料1.5万円、修繕費6.0万円、その他3.0万円で合計159.5万円。差引きの現金手残りは53.0万円です。ここから税金13.8万円を払うと、最終的に残るのは39.2万円になります。
所得78.8万円に対し、現金の手残りは53.0万円。差額の25.8万円は、経費にならない現金支出である元本返済61.0万円と、現金支出のない経費である減価償却費35.2万円の差額です(61.0-35.2=25.8)。この構造を理解しておくと、「帳簿は黒字なのに口座にお金がない」という感覚のずれがなくなります。
怖いのはこの先です。減価償却が終わると経費が35.2万円減り、所得は114万円に増えますが、元本返済は続くため現金の手残りは変わりません。所得だけが増えて税額が上がる、いわゆるデッドクロスの状態です。中古物件で耐用年数を短くしているほど早く訪れるため、償却が終わる年は購入時点で把握し、納税資金を積んでおく必要があります。節税効果を前面に出した物件の提案を受けたときは、償却期間が終わった後の税負担まで含めて試算してから判断してください。
よくある質問
Q. 会社員の副業ですが、家賃収入がいくらから確定申告が必要ですか?
給与を1か所から受けている方は、給与所得・退職所得以外の所得金額の合計が20万円以下であれば、所得税の確定申告は不要とされています。ここでいう20万円は家賃の収入金額ではなく、必要経費を引いた後の不動産所得の金額です。ただし住民税にはこの取扱いがないため、20万円以下でも市区町村への住民税の申告は必要になります。医療費控除やふるさと納税で確定申告をする場合は、20万円以下の不動産所得も申告書に含めます。
Q. 減価償却費を少なめに計上して黒字にすることはできますか?
できません。法人税では減価償却は任意ですが、所得税では償却限度額まで必ず計上する強制償却が原則です。計上しなかった分を翌年以降に繰り越すこともできません。融資の審査を意識して利益を大きく見せたいという相談は実際にありますが、正しい所得より過大な申告になり、決算書の信頼性という点でもかえって不利になります。
Q. 家賃収入に消費税はかかりますか?
住宅として貸す場合の家賃は消費税が非課税です。一方、事務所・店舗・倉庫など事業用建物の賃貸料、駐車場設備の利用に伴う土地の貸付け、看板設置料などは課税取引になります。課税売上が一定額を超えると消費税の納税義務が生じるため、住宅と事業用を両方お持ちの方は、課税売上だけを集計して基準を超えていないか毎年確認してください。
Q. 夫婦の共有名義の物件は、どちらが申告しますか?
共有持分の割合に応じて、それぞれが自分の不動産所得として申告します。夫が7割・妻が3割の持分なら、収入も経費も7対3で按分するのが原則です。収入だけを一方に寄せることはできません。なお、5棟10室の判定は共有物件全体の室数で行うという考え方が実務で用いられていますが、個別の事情によるため、境界線上の場合は事前に確認しておくと安心です。
Q. 滞納されたまま退去され、家賃が回収できません。経費にできますか?
扱いは規模で変わります。事業的規模であれば、回収不能が確定した年の必要経費として貸倒損失を計上します。事業的規模でない場合は、その家賃を収入に計上した年分の不動産所得がなかったものとして、その年分の所得計算をやり直すことになります。どちらの場合も、内容証明の控えや督促の記録など、回収できないと判断した根拠を残しておくことが前提です。
不動産所得の申告は「区分・規模・線引き」の3点で決まる
不動産所得でつまずくポイントは、突き詰めると3つに集約されます。第一に、その収入が不動産所得なのか事業所得・雑所得・譲渡所得なのかという区分。第二に、5棟10室を目安とする事業的規模かどうかという階層。第三に、支出が修繕費なのか資本的支出なのかという線引きです。この3点さえ毎年同じ基準で判断できれば、あとは収入と経費を積み上げるだけの作業になります。まずは管理会社の精算書、返済予定表、固定資産税の納税通知書、工事の見積書と請求書——この4点を1つのファイルにまとめるところから始めてください。
とはいえ、物件が増えるほど「精算書と通帳の突合」「按分の計算」「償却資産台帳の更新」といった作業は静かに膨らんでいきます。領収書丸投げドットコムは、領収書やレシート、通帳のコピーを郵送かスマホ撮影で送るだけで記帳を代行する、個人事業主・フリーランス専門のサービスです。何枚たまっていても月額6,600円(税込)の定額で、初期費用は0円、確定申告までサポートしています。なお、令和8年分(2026年分)の記帳代行のお申し込みは2026年11月30日までとなっており、申し込み状況によっては早期に締め切る場合があります。まずは家賃収入の記帳まで任せられるか、無料で相談してみるところから検討してみてください。相談は無料で、公式LINEでも24時間受け付けています。物件数ごとの費用感は料金プランのページで確認できます。
【本記事の監修】
領収書丸投げドットコム 責任者 山下
個人事業主・フリーランス専門の記帳代行サービス「領収書丸投げドットコム」(運営:それいけ株式会社)の責任者として、日々の記帳代行・確定申告サポートの実務知見に基づき本記事の内容を確認しています。本記事は、国税庁など公的機関の公表情報をもとに作成しています。








