繁忙期と閑散期がある事業の所得平準化|前払・共済で波をならす節税を解説
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税金

繁忙期と閑散期で所得の波が大きい事業は、利益が一年に集中すると税負担が割高になりがちです。前払いの活用・共済制度・青色申告の繰越控除で波をならし、好調な年の税負担を抑える考え方と実務の手順を解説します。
季節や案件のタイミングで売上の波が大きいと、「儲かった年ほど税金で持っていかれる」と感じる方は少なくありません。所得税は所得が多いほど税率が上がるため、利益が一年に偏ると同じ総額でも負担が重くなります。だからこそ、利益が出る年のうちに打つ手が効いてきます。
☑ 売上が多い年と少ない年の差が大きく、所得が多い年の税負担が一気に重くなる
☑ 繁忙期に利益が集中して、気づけば高い税率の区分に入ってしまっている
☑ 閑散期は資金繰りが苦しいのに、その前の好調な年の税金で手元のお金が減ってしまう
なぜ「所得の波」が税金で不利になるのか
所得税は超過累進課税という仕組み
所得税は、所得が多くなるほど高い税率がかかる超過累進課税という仕組みを採用しています。所得を段階(区分)に分け、上の区分にいくほど高い税率が適用されるため、利益が一年に集中するとその年だけ高い税率の区分に届いてしまい、税負担が割高になりがちです。所得に応じた税率の刻みは、国税庁タックスアンサー「No.2260 所得税の税率」で確認できます。
たとえば、ある年に大きく稼ぎ、翌年はほとんど稼げなかった場合、二年分を合計した所得が同じでも、毎年平らに稼いだ人より納める税金の合計が多くなることがあります。これが「波のある所得は不利になりやすい」と言われる理由です。
住民税や国民健康保険料にも波が響く
所得の波は、所得税だけの問題ではありません。住民税や国民健康保険料も前年の所得をもとに計算されるため、好調だった年の翌年に負担がぐっと重くなる傾向があります。
所得税は当年の所得に対してその年に課税される
住民税は前年の所得をもとに翌年度に課税される
国民健康保険料も前年の所得が計算の基礎になる
つまり、繁忙期に利益が集中した年は、その年の所得税に加えて、翌年の住民税や保険料という形でも負担が後からやってきます。波のある事業ほど、利益が出た年のうちに対策を考えておくことが大切です。
平準化の基本は「利益が出る年に手を打つ」
所得平準化とは、利益が一年に偏らないように、複数年でならして考える発想です。利益が出ている年に、認められた範囲で経費や控除を前倒しで活用したり、将来に備える制度にお金を移したりすることで、その年の課税所得を抑えます。重要なのは、利益が大きく出ると見込める年のうちに動くことです。年が明けてからでは間に合わない対策も多いため、決算期(個人の場合は12月末)を見据えて早めに検討しましょう。
前払い・前倒しで利益の山をならす
短期前払費用の特例を活用する
事業で継続的に支払う費用のうち、一定の要件を満たすものは「短期前払費用」として、支払った年の経費にできる場合があります。これは、契約に基づいて継続的にサービスを受けるもので、支払い日から一年以内に提供を受ける費用について、まとめて前払いした年の経費に計上できるという考え方です。
事務所や倉庫の家賃を一年分まとめて前払いする
サーバーやソフトの利用料を年払い契約にする
保険料など、継続的なサービスに対する費用を前払いする
利益が大きい年にこうした費用を前払いすれば、その年の経費を増やして課税所得を抑えられます。ただし、要件を満たさない使い方をすると認められないことがあり、適用には細かい条件があります。実際に行う前に、要件に当てはまるかを確認しておくと安心です。利益が出た年に経費を前倒しする具体策は、期末の経費前倒しで節税する方法にもまとめています。
必要な設備投資・備品購入を好調な年に寄せる
いずれ買う予定のある事業用の備品や設備は、利益が出ている年に購入することで、その年の経費(または減価償却を通じた費用)として活用できます。少額の備品であれば購入した年に一括で経費にできる範囲もあり、好調な年の課税所得を抑える助けになります。
もちろん、節税のためだけに不要なものを買うのは本末転倒です。あくまで「どうせ必要なもの」を、利益が出ているタイミングに合わせて購入する、という発想で考えましょう。
前払いの注意点
前払いや前倒しの対策は、その年の経費を増やせる一方で、翌年以降に計上できたはずの経費を先に使ってしまうという面もあります。閑散期で利益が少ない年には、むしろ経費を残しておきたい場合もあるため、複数年の見通しを持って判断することが大切です。手元の資金繰りを圧迫しない範囲で行うことも忘れないようにしましょう。
共済制度で「将来の備え」と節税を両立する
小規模企業共済
小規模企業共済は、個人事業主や小規模な会社の経営者が、廃業や引退に備えて積み立てる制度です。掛金は一定の範囲で自分で決められ、支払った掛金は全額が所得控除の対象になります。利益が大きい年に掛金を活用すれば、その年の課税所得を抑えながら、将来の自分のための資金を積み立てられます。
掛金は月額で設定でき、所得や資金繰りに応じて増減もできる
支払った掛金は全額が所得控除になる
受け取るときは退職金や年金に近い扱いとなり、受取時の税制上の優遇も用意されている
「いまの節税」と「将来の備え」を同時に進められる点が、波のある事業と相性のよい制度です。掛金の前納(前払い)が認められる仕組みもあり、利益が出た年に一年分をまとめて支払って、その年の控除を厚くするという使い方も考えられます。掛金の水準ごとの節税額の目安は、小規模企業共済で節税する場合のシミュレーションで確認できます。
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)
経営セーフティ共済は、取引先が倒産したときに備えて積み立てる制度で、支払った掛金を必要経費として扱える点が特徴です。一定の範囲で掛金を決められ、まとめて前納することもできます。利益が大きい年に活用すれば、その年の経費を増やして課税所得を抑える効果が期待できます。
ただし、解約して掛金が戻ってきたときには、その戻り分が事業の収入として課税される点に注意が必要です。「経費にした年」と「収入になる年」をどう組み合わせるかで効果が変わるため、解約のタイミングまで含めて計画的に使うことがポイントになります。
iDeCo(個人型確定拠出年金)も平準化の選択肢
老後資金を自分で積み立てるiDeCoは、支払った掛金が全額所得控除の対象になります。掛金には上限があり、原則として一定の年齢になるまで引き出せないという制約はありますが、長期的に課税所得を抑えながら老後資金を準備できる仕組みです。掛金でどれくらい所得を抑えられるかの目安はiDeCoで所得を抑える節税と資産形成で試算できます。共済制度と合わせて、利益が出る年に控除を厚くする手段のひとつとして検討する価値があります。
青色申告ならではの「平準化」の仕組み
純損失の繰越控除で赤字を翌年以降に活かす
青色申告をしている個人事業主は、事業で生じた赤字(純損失)を、一定期間にわたって翌年以降の黒字と相殺できる「繰越控除」が使えます。閑散期に赤字が出た年があっても、その損失を将来の利益と相殺できるため、結果的に複数年の所得をならす効果があります。青色申告制度の全体像は国税庁タックスアンサー「No.2070 青色申告制度」で、赤字を翌年以降に活かす具体的な進め方は青色申告の赤字繰越で節税につなげる方法で確認できます。
波の大きい事業では、赤字の年と黒字の年が交互に来ることも珍しくありません。青色申告でこの仕組みを使えるようにしておくこと自体が、所得平準化の土台になります。
青色申告特別控除と専従者給与
青色申告では、要件を満たすと最大65万円の青色申告特別控除を受けられます。これは毎年安定して所得を圧縮できる控除で、波の有無にかかわらず大きなメリットです。また、家族に事業を手伝ってもらっている場合は、青色事業専従者給与として支払った金額を経費にできる仕組みもあります。利益が出た年ほど、こうした控除を確実に使えているかを見直しましょう。
記帳が平準化の前提になる
繰越控除も青色申告特別控除も、日々の取引をきちんと記帳していることが前提です。利益の波を複数年でならすには、各年の所得を正確に把握できていなければ作戦が立てられません。繁忙期こそ記帳が後回しになりがちですが、正確な帳簿があってはじめて平準化の打ち手を選べる、という点を押さえておきましょう。実際に、繁忙期の売上に追われて数か月分の記帳がたまってからご相談に来られる方は少なくありません。繁忙期に記帳まで手が回らないときは、記帳をまるごと任せる記帳代行で帳簿だけでも整えておく手があります。
波のある事業の年間スケジュールの立て方
年の後半に着地見込みを確認する
個人事業主の課税対象は1月から12月までの所得です。対策の多くは年内に動かないと間に合わないため、できれば秋ごろまでに、その年の利益がどれくらいになりそうかの「着地見込み」をつかんでおきたいところです。繁忙期が終わったあたりで一度数字を整理し、利益が大きく出そうなら前払いや共済の活用を検討します。
閑散期の資金繰りまで見据える
節税ばかりに気を取られて、閑散期に手元のお金が足りなくなっては元も子もありません。前払いや掛金の支払いは現金が出ていくものですから、繁忙期の利益のうち、どれだけを翌年以降の運転資金として残すかを先に決めておくことが大切です。「税金を抑える」ことと「手元資金を守る」ことのバランスを意識しましょう。
無理のない範囲で続けられる方法を選ぶ
共済やiDeCoのような制度は、長く続けてこそ効果が出ます。利益が大きい年だけ無理に大きな掛金を払うのではなく、増減ができる仕組みをうまく使い、好調な年は厚く、苦しい年は抑える、といった調整ができると、波のある事業でも続けやすくなります。
よくある質問
Q. 繁忙期に利益が集中しそうです。年内にできる対策はありますか?
年内に間に合う対策としては、短期前払費用の活用、必要な設備・備品の購入、小規模企業共済や経営セーフティ共済の掛金の活用などが代表的です。いずれもその年の課税所得を抑える効果が期待できますが、要件や上限があり、現金が出ていく点にも注意が必要です。秋から年末にかけて利益の見込みを確認し、無理のない範囲で組み合わせるとよいでしょう。
Q. 赤字の年があっても、確定申告はした方がよいですか?
青色申告をしている場合、赤字(純損失)を申告しておくことで、その損失を翌年以降の黒字と相殺できる繰越控除が使えます。これは波のある事業の所得平準化に直結する仕組みです。「赤字だから申告しなくてよい」と考えず、将来の利益に備えるためにも、赤字の年こそきちんと申告しておくことをおすすめします。
Q. 共済や前払いをすれば、税金はゼロにできますか?
これらの制度はあくまで課税所得を抑えるための手段であり、税金をゼロにするものではありません。また、共済の解約金が後から収入になるなど、効果が先送りされる面もあります。節税効果だけで判断せず、将来の備えや資金繰りも含めて、自分の事業に合うかどうかで選ぶことが大切です。
結論:波をならして好調な年の税負担を軽くする
繁忙期と閑散期で所得の波が大きい事業は、利益が一年に集中することで税負担が割高になりやすい一方、前払いの活用や共済制度、青色申告の繰越控除などを組み合わせることで、複数年で利益をならし、好調な年の税負担を抑える余地があります。ポイントは、利益が出ると見込める年のうちに、資金繰りまで見据えて早めに手を打つことです。
とはいえ、繁忙期の本業に追われながら、利益の着地見込みを把握し、記帳から申告書の作成までを自分一人で行うのは大きな負担です。波のある事業ほど、正確な帳簿づくりが平準化の前提になるだけに、ここでつまずくと打ち手も選べなくなってしまいます。
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【本記事の監修】
領収書丸投げドットコム 責任者 山下
個人事業主・フリーランス専門の記帳代行サービス「領収書丸投げドットコム」(運営:それいけ株式会社)の責任者として、日々の記帳代行・確定申告サポートの実務知見に基づき本記事の内容を確認しています。本記事は、国税庁など公的機関の公表情報をもとに作成しています。








