従業員の立替経費・通勤定期とインボイスの保存実務を解説
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税務

従業員の立替経費や通勤定期、公共交通機関の交通費は、立替金精算書の保存や少額特例・公共交通機関特例を押さえれば、インボイス制度のもとでも仕入税額控除を受けられます。誰が・どの書類を・どう保存すればよいのかを、実務の目線で整理していきます。
インボイス制度が始まってから、従業員が立て替えた経費の取り扱いに戸惑う事業者が増えています。宛名が従業員個人名の領収書や、そもそも領収書が発行されない交通費など、「これで仕入税額控除をして大丈夫なのか」と心配になる場面は少なくありません。
☑ 従業員が立て替えた経費の領収書、宛名が従業員個人名でも仕入税額控除できるのか不安だ
☑ 通勤定期や交通費は領収書が出ないことが多く、インボイスの保存をどうすればいいかわからない
☑ 立替経費の精算書類を、誰がどう保存しておけば税務調査で困らないのか整理できていない
このコラムでは、従業員の立替経費・通勤定期・公共交通機関の交通費について、インボイス制度のもとでの保存実務を整理します。どの書類を、誰が、どのように保存しておけばよいのか、全体像をつかんでいきましょう。
従業員の立替経費とインボイス制度の基本
立替経費とは何か
立替経費とは、本来は会社(事業者)が負担すべき費用を、従業員が一時的に自分のお金で支払い、あとから精算してもらう経費のことです。出張先での宿泊費や交際費、文房具の購入、取引先までの電車代など、業務に必要な支出を従業員が立て替える場面は日常的にあります。
消費税の計算上、これらの立替経費も会社の経費として仕入税額控除の対象になります。仕入税額控除とは、売上にかかる消費税から、仕入や経費にかかった消費税を差し引いて納める税額を計算する仕組みです。しくみの全体像は国税庁タックスアンサーNo.6101「消費税の基本的なしくみ」で確認できます。立替経費もきちんと要件を満たせば、この控除を受けられます。
インボイス制度で何が変わったのか
インボイス制度(適格請求書等保存方式)のもとでは、仕入税額控除を受けるために、原則として適格請求書(インボイス)の保存が必要になりました。インボイスとは、登録番号や適用税率、消費税額などの決められた事項が記載された請求書や領収書のことです。制度の全体像は国税庁の特集ページ「インボイス制度」で確認できます。
つまり立替経費についても、従業員が受け取った領収書がインボイスの要件を満たしているか、そしてそれをきちんと保存できているかが問われるようになりました。ここが、立替経費の実務でつまずきやすいポイントです。
「立替金精算書」が実務のカギになる
従業員の立替経費でよく問題になるのが、領収書の宛名が会社名ではなく従業員個人名になっているケースです。この場合でも、立替えであることがわかる立替金精算書を従業員が作成し、その領収書(インボイス)と一緒に会社が保存しておけば、原則として仕入税額控除が認められます。
立替金精算書は、誰がいつ何のために立て替えたのかを示す精算書類です。会社宛のインボイスと、従業員宛のインボイス+立替金精算書はセットで保管するという考え方を押さえておくと、実務がスムーズになります。
立替経費を仕入税額控除するための保存実務
会社宛のインボイスを受け取れる場合
もっとも分かりやすいのは、最初から会社(事業者)宛のインボイスを受け取れる場合です。たとえば取引先の飲食店で領収書を発行してもらうとき、宛名を会社名にしてもらえば、そのインボイスをそのまま保存するだけで済みます。立替金精算書を別途用意する手間もかかりません。
従業員に対しては、可能な限り「領収書の宛名は会社名でもらう」よう社内ルールとして周知しておくと、後々の処理が楽になります。
領収書が従業員個人名の場合
出張先や急な支払いでは、宛名を会社名にしてもらえず、従業員個人名や宛名なしの領収書になることもあります。この場合は、次の2点をセットで保存します。
従業員が受け取ったインボイス(領収書・請求書など)
従業員が作成した立替金精算書(誰の立替えかを明らかにする書類)
立替金精算書には、立て替えた従業員の氏名、支払日、支払先、内容、金額などを記載します。この精算書があることで、「従業員個人宛の領収書だが、実態は会社の経費である」ことを税務署に説明できる状態になります。
少額特例も確認しておく
一定規模以下の事業者については、税込1万円未満の課税仕入れであればインボイスの保存がなくても帳簿の保存だけで仕入税額控除が認められる、いわゆる少額特例という経過的な取り扱いが設けられています。また、免税事業者からの仕入れでも一定割合を控除できる経過措置の記帳はインボイス経過措置(8割控除)の記帳実務で確認できます。立替経費にも適用できる場面があるため、自社が対象になるかどうかを一度確認しておくと安心です。なお、こうした特例には適用できる期間や事業者の範囲に条件があるため、最新の取り扱いは国税庁の案内や専門家に確認することをおすすめします。
通勤定期・通勤手当の取り扱い
通勤手当には特例がある
毎月支給する通勤手当は、従業員が通勤のために負担する交通費を会社が補助するものです。インボイス制度では、通勤者に通常必要と認められる通勤手当については、インボイスの保存がなくても、一定の事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除が認められる特例があります。
これは、通勤手当が個々の交通機関の領収書をすべて集めることが現実的でない性質のものであることを踏まえた取り扱いです。電車やバスの定期代相当として支給している通勤手当であれば、この特例の対象になります。
「通常必要と認められる」範囲とは
特例の対象となるのは、あくまで通勤のために通常必要と認められる範囲の通勤手当です。実際の通勤に必要な金額を大きく超えて支給している部分などは、特例の対象外になったり、そもそも給与として扱われたりする可能性があります。
所得税の非課税限度額との関係もあるため、通勤手当の金額設定は、合理的な通勤経路と運賃を基準にすることが基本です。過大な支給にならないよう、通勤経路と金額の根拠を記録しておきましょう。
定期券を会社が直接購入する場合との違い
従業員に通勤手当として現金で支給するのではなく、会社が定期券そのものを購入して従業員に支給するケースもあります。この場合は、定期券の購入時に受け取る書類の取り扱いを確認する必要があります。自社の通勤費がどちらの形なのかを整理したうえで、必要な保存方法を選びましょう。
公共交通機関の交通費の保存実務
公共交通機関特例(3万円未満)
電車やバス、船などの公共交通機関を利用した場合、税込3万円未満の運賃については、インボイスの保存がなくても帳簿の保存だけで仕入税額控除が認められる特例があります。これを公共交通機関特例と呼びます。
切符の購入では領収書が出ないことも多いため、この特例は実務上とても重要です。出張の際の電車賃やバス代など、3万円未満のものはこの特例の範囲で処理できるケースが多くなります。
帳簿に何を書けばよいか
特例を使う場合でも、帳簿への記載は必要です。一般的には次のような事項を記録します。
支払日(利用日)
支払先(鉄道会社名など、または「公共交通機関特例」である旨)
金額
取引の内容(区間や用務など)
従業員が立て替えた交通費を精算するときは、交通費精算書に区間・金額・利用日を記入してもらい、それをもとに帳簿へ反映する流れが実務的です。飲食料品など税率の異なる支払いが混ざる場合の区分は、軽減税率の区分経理もあわせて確認しておくと迷いません。
ICカードやチャージの扱い
交通系ICカードで運賃を支払った場合も、公共交通機関の利用であれば3万円未満の特例の考え方が当てはまります。ただし、ICカードへのチャージそのものは運賃の支払いではないため、実際に何にいくら使ったのかを利用履歴などで確認できるようにしておくことが大切です。物販などにICカードを使った場合は、交通費とは区別して処理しましょう。
保存ルールを社内で整えるコツ
精算書のフォーマットを統一する
立替経費や交通費の精算は、従業員ごとに書式がバラバラだと集計も保存も大変になります。立替金精算書・交通費精算書のフォーマットを社内で統一し、必要な記載項目(氏名・日付・支払先・内容・金額・税率区分など)をあらかじめ印刷しておくと、記入漏れを防げます。精算書のフォーマット作りから保存まで手間を減らしたいときは、記帳代行に任せる方法もあります。
「会社宛のインボイスがある経費」「従業員宛のインボイス+精算書で処理する経費」「特例で帳簿のみで処理する経費」を、精算書の段階で区別できるようにしておくと、経理処理がぐっと楽になります。
電子データの保存にも注意
領収書や請求書を電子データで受け取った場合は、電子帳簿保存法のルールに沿った保存も意識する必要があります。メールで届いたPDFの領収書や、ネットで購入した際の電子領収書などは、紙に印刷して終わりではなく、データとしての保存が求められる場面があります。具体的な保存方法は電子取引データの保存にまとめています。立替経費でも電子データが増えているため、紙とデータの両方の保存ルールを整えておきましょう。
従業員への周知が最大の予防策
立替経費のインボイス対応で最も効果的なのは、従業員への周知です。「領収書は会社名でもらう」「3万円以上の経費は領収書を必ずもらう」「精算書には区間や内容を具体的に書く」といった基本ルールを共有しておくだけで、後からの確認や差し戻しの手間が大きく減ります。
よくある質問
Q. 従業員個人名の領収書しかありませんが、仕入税額控除できますか?
従業員が立て替えたことを示す立替金精算書を作成し、その従業員宛のインボイス(領収書)と一緒に保存しておけば、原則として仕入税額控除が可能です。実態は会社の経費であることを書類で説明できる状態にしておくことがポイントです。なお、最初から会社名で領収書をもらえる場合は、精算書を用意する必要がなく処理が簡単になります。
Q. 電車代やバス代の領収書がもらえません。どうすればいいですか?
公共交通機関の運賃で税込3万円未満のものは、公共交通機関特例により、領収書(インボイス)がなくても帳簿の保存だけで仕入税額控除が認められます。交通費精算書に利用日・区間・金額を記録し、帳簿へ反映しておきましょう。3万円以上になる場合は、原則どおりインボイスの保存が必要になります。
Q. 通勤定期代として支給している通勤手当も、領収書の保存が必要ですか?
通勤者に通常必要と認められる範囲の通勤手当であれば、インボイスの保存がなくても、一定事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除が認められる特例があります。ただし、通勤に必要な合理的な金額を超える部分は対象外になることがあるため、金額の根拠となる通勤経路や運賃は記録しておきましょう。
まとめ|立替経費は「精算書」と「特例」を押さえれば整理できる
従業員の立替経費・通勤定期・交通費のインボイス対応は、ポイントを押さえれば決して難しいものではありません。会社宛のインボイスが取れる経費はそのまま保存し、従業員個人宛の領収書は立替金精算書とセットで保存する。通勤手当や3万円未満の公共交通機関の運賃は特例を活用して帳簿で処理する。この整理ができれば、税務調査でも慌てずに対応できます。
ただ、立替金精算書のフォーマット作りから、特例の対象になるかの判断、電子データの保存ルールまでを整えながら、日々の記帳と消費税の集計を本業の合間にこなすのは、決して軽い作業ではありません。制度の細かな要件を一つひとつ確認する時間が取れず、処理が後回しになってしまうこともあります。
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【本記事の監修】
領収書丸投げドットコム 責任者 山下
個人事業主・フリーランス専門の記帳代行サービス「領収書丸投げドットコム」(運営:それいけ株式会社)の責任者として、日々の記帳代行・確定申告サポートの実務知見に基づき本記事の内容を確認しています。本記事は、国税庁など公的機関の公表情報をもとに作成しています。








