病気・療養で年の途中に休業した個人事業主の確定申告を解説
#
確定申告

病気・療養で年の途中に休業した年こそ、確定申告で納めすぎた所得税の還付を受けたり、赤字を翌年へ繰り越したりと、税制面で取り戻せるものがあります。医療費の扱いや休業中の経費、使える控除まで整理します。
病気やケガで思うように働けなくなり、年の途中で事業を休まざるを得なくなる。個人事業主にとって、これは収入面でも精神面でも大きな打撃です。体調がすぐれない中で、「申告はどうなるのだろう」「赤字になりそうだけれど手続きは必要なのか」と不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
☑ 病気で年の途中から休業したけれど、確定申告は必要なのかわからない
☑ 療養中にかかった医療費を、経費にできるのか医療費控除にするのか迷っている
☑ 休んでいた期間の家賃や保険料、固定費をどう処理すればよいか不安だ
申告の要否から医療費の扱い、休業中の経費処理、使える控除や制度まで、体調回復を優先しながら最低限やるべき手続きの全体像を確認していきます。
年の途中で休業しても確定申告は必要か
収入が少なくても申告した方が有利なケースが多い
「ほとんど働けなかったから申告はいらないのでは」と考える方もいますが、実際には申告した方が有利になるケースが多いです。年の前半に売上があったり、取引先から源泉徴収された報酬を受け取っていたりする場合、確定申告をすることで納めすぎた所得税が還付されることがあります。療養で所得が下がった年こそ、所得控除の効果が大きく出やすく、還付につながりやすいのです。納めすぎた税金を取り戻す手続きは還付申告のしくみで確認できます。
また、たとえ赤字でも、青色申告をしている方は申告しておく意味があります。後述するように、赤字(純損失)を翌年以降に繰り越せる制度を使えるからです。体調が許す範囲で、申告を前向きに検討しましょう。
廃業ではなく「休業」なら事業は続いている扱い
大切なのは、年の途中で休んだだけで事業をやめていないなら、それは「休業」であって「廃業」ではないという点です。廃業届を出していない限り、事業は継続している扱いになります。翌年に体調が戻って再開する前提なら、廃業の手続きはせず、その年の収支をそのまま確定申告で申告すれば問題ありません。
休業中でも記帳と書類の保存は続ける
休業していた期間も、家賃や保険料などの固定費が発生していれば、それは事業の経費になり得ます。休んでいたからといって帳簿づけを完全に止めてしまうと、後で経費の計上漏れが起きやすくなります。体力的に難しければ、領収書や請求書を月ごとに封筒へ分けて保管しておくだけでも、後の整理がぐっと楽になります。体調がすぐれず日々の記帳まで手が回らないときは、記帳代行というやり方に頼って療養に専念するのも一つの方法です。
療養でかかった医療費の扱い方
治療費は経費ではなく「医療費控除」で考える
ここはとても間違えやすいポイントです。事業主本人の病気やケガの治療にかかった費用は、原則として事業の経費にはなりません。事業主個人の支出だからです。そのかわり、一定額を超えた医療費は「医療費控除」という所得控除の対象になります。経費として帳簿に入れるのではなく、確定申告書の所得控除欄で計算する、と覚えておきましょう。医療費控除の要件は国税庁タックスアンサーNo.1120「医療費を支払ったとき(医療費控除)」で確認できます。
医療費控除は、本人だけでなく生計を同じくする家族のために支払った医療費も合算できます。1年間に支払った医療費が一定額(目安として10万円、所得が少ない方はその所得の一定割合)を超えると、超えた部分が控除の対象になります。控除額の見積もりは医療費控除の節税シミュレーションが参考になります。
対象になるもの・ならないもの
対象になりやすいもの:病院での診療費・治療費、処方された薬代、入院費、通院のための公共交通機関の交通費 など
対象になりにくいもの:健康増進のためのサプリメント、美容目的の施術、自家用車のガソリン代や駐車場代、予防目的の費用 など
領収書は、医療費控除の明細書を作るために必要です。捨てずに保管し、誰の・いつの・いくらの支払いかがわかるようにまとめておきましょう。なお、保険金や給付金で補てんされた金額がある場合は、その分は医療費から差し引いて計算します。
セルフメディケーション税制という選択肢もある
市販薬を多く購入した年には、一定の市販薬の購入額が対象になる「セルフメディケーション税制」という制度も選べます。通常の医療費控除とは併用できず、どちらか一方を選ぶ仕組みです。療養の内容によって有利な方が変わるので、両方で試算して有利な方を選ぶとよいでしょう。
休業期間中の経費はどこまで計上できるか
事業を維持するための固定費は経費にできる
休業中でも、事業を続けるために発生し続ける費用は経費として計上できます。具体的には、事務所や店舗の家賃、事業用の電気・通信費、リース料、損害保険料、減価償却費などです。これらは「売上を生むために事業を維持している費用」と考えられるため、休業期間分も計上して差し支えありません。
ただし、自宅兼事務所のように家事按分が必要な経費は、休業前と同じ按分割合で計算するのが基本です。休んでいた月だけ割合を大きく変えるといった処理は、合理的な根拠がない限り避けましょう。
休業で発生しなくなった経費は計上しない
仕入れをしなかった期間の仕入高はゼロ
外注を止めていた期間の外注費は発生しない
営業活動をしていない期間の交通費・接待費なども実態に合わせる
当然ですが、実際に発生していない経費を「例年どおり」で入れることはできません。休業の実態に合わせて、発生した費用だけを正直に計上することが、後の指摘を避けるうえで大切です。
減価償却は休業中も原則そのまま続ける
事業用に購入した車や機械、パソコンなどの減価償却は、休業していても原則として例年どおり計上します。資産は使っていなくても時間の経過とともに価値が下がっていくと考えるためです。途中で売却したり廃車にしたりした場合は別の処理が必要になりますが、保有し続けているなら通常どおり償却費を計上しましょう。
赤字になった年に使える制度と控除
青色申告なら純損失の繰越控除が使える
療養で売上が大きく落ち込み、年間で赤字になることもあります。このとき青色申告をしていれば、その年の赤字(純損失)を翌年以降に繰り越せるのが大きなメリットです。繰り越した赤字は、翌年以降に黒字が出たときにその所得から差し引けるため、回復した年の税負担を軽くできます。これは赤字の年でもきちんと申告書を出しておくことが前提です。制度の使い方は青色申告の赤字繰越の活用で詳しく解説しています。
前年も青色申告をしていた場合は、赤字を前年に繰り戻して、前年に納めた所得税の還付を受ける「純損失の繰戻し還付」という選択肢もあります。当面の資金繰りが厳しいときには、こちらが助けになることもあります。
所得が下がった年こそ所得控除が効く
休業で所得が少ない年でも、社会保険料控除、生命保険料控除、基礎控除、医療費控除などの所得控除はしっかり使えます。所得が小さいほど、控除によって課税所得がゼロに近づきやすく、源泉徴収されていた税金が還付されやすくなります。控除証明書や医療費の領収書を集めて、使える控除を取りこぼさないようにしましょう。
国民健康保険・国民年金の負担を見直す
所得が大きく下がった年は、翌年度の国民健康保険料の負担も変わってきます。また、収入が著しく減ったときには、国民年金保険料の免除・猶予制度を利用できる場合があります。確定申告の所得が、これらの保険料や免除の判定にも使われるため、正しく申告しておくことは将来の負担調整にもつながります。詳しい要件は、お住まいの市区町村の窓口で確認しておくと安心です。
体調が万全でないときの申告の進め方
無理せず、できることから少しずつ
療養中に、帳簿づけから申告書作成までをすべて自力でこなすのは大きな負担です。まずは、領収書・請求書・通帳のコピー・控除証明書といった「材料」を一か所に集めることから始めましょう。材料さえそろっていれば、後の集計や記入は一気に進められます。体調の波に合わせて、できる日にできる分だけ進める姿勢で十分です。
期限に間に合わないと感じたら早めに相談を
確定申告の期間は、原則として毎年2月16日から3月15日までです。どうしても体調的に間に合わないと感じたら、放置せず早めに税務署や専門家に相談しましょう。期限後申告になると、無申告加算税や延滞税の対象になったり、青色申告特別控除の65万円が受けられなくなったりといった不利益が生じることがあります。早めに動くほど、選べる対応の幅が広がります。
家族や専門家の力を借りる
申告書の作成は、必ずしも一人で抱え込む必要はありません。家族に書類整理を手伝ってもらう、記帳代行サービスに日々の処理を任せるなど、外の力を借りることで、療養に専念できる時間を確保できます。体調回復を最優先にしながら、申告の負担をできるだけ軽くする工夫を考えましょう。
よくある質問
Q. 年の前半だけ売上があり、後半は完全に休業しました。申告は必要ですか?
前半に売上があるなら、その分を含めて1年間の収支を確定申告するのが原則です。むしろ、前半に源泉徴収された報酬があれば、休業で所得が下がったことで税金が還付される可能性が高いです。手続きの手間はかかりますが、申告した方が結果的に得になることが多いので、前向きに検討することをおすすめします。
Q. 入院していて治療費がかなりかかりました。これは事業の経費になりますか?
事業主本人の入院費や治療費は、事業の経費にはなりません。これらは医療費控除という所得控除で扱います。生計を同じくする家族の医療費も合算でき、一定額を超えた分が控除の対象になります。保険金などで補てんされた金額があれば、その分を差し引いて計算する点にも注意しましょう。
Q. 赤字の年でも青色申告の決算書を作る意味はありますか?
あります。青色申告であれば、その年の赤字を翌年以降に繰り越し、回復した年の黒字から差し引けるためです。赤字を申告しておかないとこの繰越が使えません。将来の税負担を軽くする「貯金」のようなものと考えて、赤字の年こそきちんと申告しておきましょう。
療養の年こそ、申告で取り戻せるものがある——今日の結論
病気や療養で年の途中に休業した年は、申告すれば還付を受けられたり、赤字を翌年に繰り越せたりと、税制面で取り戻せるものが少なくありません。治療費は経費ではなく医療費控除で扱う、休業中の固定費は経費にできる、青色申告なら赤字を繰り越せる。この三つを押さえておけば、慌てずに対応できます。
体調がすぐれない中で、領収書の整理から帳簿づけ、申告書の作成までをすべて自分で行うのは大きな負担です。無理をして回復を遅らせてしまっては本末転倒です。領収書丸投げドットコムでは、領収書や請求書を郵送かスマホ撮影で送るだけで、日々の記帳から確定申告書類の作成までを税理士監修のもとで代行しています。療養に専念できるよう記帳を任せられるか相談する。相談は無料です。確定申告そのものを丸ごと任せたい場合は確定申告の丸投げ代行もご検討ください。
【本記事の監修】
領収書丸投げドットコム 責任者 山下
個人事業主・フリーランス専門の記帳代行サービス「領収書丸投げドットコム」(運営:それいけ株式会社)の責任者として、日々の記帳代行・確定申告サポートの実務知見に基づき本記事の内容を確認しています。本記事は、国税庁など公的機関の公表情報をもとに作成しています。








