国外転出時課税(出国税)と個人事業主|対象資産と納税猶予の備えを解説
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税金

結論から言うと、国外転出時課税(出国税)の対象になるのは、株式や投資信託などの含み益が一定額以上ある人が日本を出国する場合に限られます。対象になる資産と対象者の条件、納税猶予の仕組み、移住前に整えておきたい段取りまでを具体的に確認しましょう。
個人事業主やフリーランスとして働きながら、海外移住や長期の海外滞在を検討する方が増えています。その際に「国外転出時課税制度(いわゆる出国税)」という言葉を耳にして、「自分にも関係があるのだろうか」「思わぬ税金がかかるのでは」と心配になる方は少なくありません。
☑ 海外移住や海外勤務を考えているが、「出国税」がかかると聞いて不安だ
☑ 自分が持っている株式や投資信託が、出国税の対象になるのか判断できない
☑ 出国時にまとまった税金を払えそうにないが、何か猶予の方法はないのか知りたい
出国税とはどのような制度で、どんな資産が対象になり、誰が対象者になるのか。あわせて、出国時に資金が足りないときに役立つ「納税猶予」の仕組みや、移住前に備えておきたいポイントも整理します。自分が制度の対象になりそうか、何を準備すればよいかの全体像がつかめるはずです。
国外転出時課税(出国税)とは何かを整理しましょう
「持っているだけで売っていない資産」に課税される制度
国外転出時課税制度は、一定額以上の有価証券などを持つ人が日本を出国して非居住者になるとき、その資産をその時点でいったん売ったものとみなして、含み益(買ったときより値上がりしている部分)に所得税を課す制度です。通称「出国税」と呼ばれています。
通常、株式などの値上がり益には、実際に売却して利益が確定したときに税金がかかります。ところが海外へ移住してしまうと、移住先の国によっては値上がり益に日本の税金が及ばなくなることがあります。そうした課税のすき間を防ぐために設けられたのが、この制度です。実際にお金が入ってきていなくても、含み益に対して税金が計算される点が、最初の戸惑いポイントになりやすいところです。
なぜ個人事業主・フリーランスにも関係するのか
「出国税」と聞くと大企業の経営者や富裕層だけの話に思えるかもしれません。しかし、長年こつこつと株式投資や投資信託の積み立てを続けてきた個人事業主・フリーランスの方が、気づかないうちに対象になっているケースもあります。フリーランスの働き方は場所に縛られにくいぶん出国の機会も身近で、事業が軌道に乗り余剰資金を運用に回してきた方ほど注意が必要です。移住を具体的に考え始める前に、制度の存在を知っておくことが大切です。
出国税の対象になる資産と対象者の条件
対象となる主な資産
国外転出時課税の対象となるのは、おもに次のような資産です。
上場株式・非上場株式などの有価証券
投資信託や公社債などの金融商品
未決済の信用取引・先物取引・オプション取引などのデリバティブ取引
ポイントは、対象が有価証券などの金融資産に限られていることです。たとえば自宅や事業用の不動産、現金や預貯金そのもの、自動車や貴金属といった現物資産は、この制度の直接の対象にはなりません。あくまで値上がり益が生じうる有価証券などが中心だと理解しておきましょう。ふだんの株式売却で損益がどう計算されるかは、上場株式の譲渡損失を繰り越すときの確定申告で整理しているので、含み益の考え方を確かめる手がかりになります。
対象者になるための「金額」と「居住期間」の条件
対象資産を持っていれば誰でも課税されるわけではなく、おおまかに次の2つの条件をどちらも満たす人が対象になります。
出国時に持っている対象資産の時価の合計が、一定の高額な基準(おおむね1億円以上とされています)に達していること
出国の直前の一定期間(過去10年のうち5年を超えて、といった条件)に、日本に住んでいた実績があること
つまり、対象資産が基準額に届かない方や、もともと日本での居住期間が短い方は、原則としてこの制度の対象になりません。逆にいえば、対象資産が大きく育っている方ほど、出国の前に時価がいくらになっているかを把握しておく必要があります。具体的な金額基準や居住期間の数え方は細かい定めがあるため、自分が境界線に近いと感じる場合は、早めに専門家へ確認することをおすすめします。
「贈与」や「相続」で資産が海外の人に渡るときも対象になりうる
国外転出時課税には、自分が出国する場合だけでなく、対象資産を国外に住む親族などへ贈与したり、相続・遺贈で渡したりする場合に課税される仕組みもあります。「出国=自分が引っ越すときだけの話」と決めつけないことが大切です。国外に住む家族に関わる税務は、国外に住む扶養親族がいる場合の確定申告もあらかじめ確認しておくと、家族の状況を見落とさずに済みます。
出国までに必要になる手続きの流れ
確定申告での申告が必要
国外転出時課税の対象になる場合、その含み益はその年の所得として確定申告で申告する必要があります。出国するタイミングによって、出国の時までに申告と納税を済ませるか、その年の通常の確定申告(原則2月16日〜3月15日)で申告するか、といった取り扱いが変わります。いずれにしても「黙っていても自動的に処理される」ものではなく、自分で申告する義務がある点を押さえておきましょう。確定申告の基本的な仕組みは、国税庁タックスアンサーNo.2020「確定申告」で確認できます。申告そのものの手間を軽くする準備として、マイナポータル連携で確定申告を自動化する方法を知っておくと、出国前後のあわただしい時期でも申告が進めやすくなります。
納税管理人を決めておくとスムーズ
海外に住むと、日本の税務署とのやり取りや申告書の提出を自分一人で行うのが難しくなります。そこで、出国前に納税管理人(日本国内で税務上の手続きを代わりに行ってくれる人や専門家)を定めて税務署に届け出ておくと、後述する納税猶予の手続きや、その後の申告がスムーズになります。納税管理人を定めるかどうかで、利用できる猶予期間などの取り扱いに違いが出る場合があるため、移住スケジュールが固まってきたら早めに検討しましょう。
資産の時価を把握する準備
申告では、対象資産の出国時点の時価を計算する必要があります。証券口座の残高証明や取引報告書、過去の購入記録などをそろえ、いつ・いくらで買った資産が今いくらになっているのかを整理しておきましょう。資料が散らばっていると、出国直前に時価の把握で手間取り、申告が間に合わなくなるおそれがあります。
納税猶予の仕組みと活用のポイント
すぐに払えないときの「納税猶予」
出国税の大きな悩みは、実際にはまだ売っていない資産の含み益に課税されるため、手元に納税資金がないまま税額だけが発生しうる点です。これに対応するために、一定の手続きをとることで納税を一定期間猶予できる制度が用意されています。
具体的には、納税管理人の届け出をしたうえで確定申告を行い、猶予を受ける税額に見合った担保を提供することで、原則として数年単位の猶予を受けられます(一定の手続きにより、その期間をさらに延長できる場合もあります)。猶予を受けている間は、資産を実際に売らずに保有を続けながら、納税のタイミングを後ろにずらすことができます。
担保の提供と継続手続きを忘れずに
納税猶予を使うには、税額に見合う担保を差し入れる必要があります。担保には、有価証券や不動産などを充てることが一般的です。また、猶予を継続するためには、猶予期間中も毎年、所定の届出書を提出し続けるなどの手続きが求められます。この継続手続きを忘れると、猶予が取り消されて一度に納税を求められることもあるため、スケジュール管理が重要です。
帰国した場合・実際に売却した場合の取り扱い
納税猶予を受けたあとの結末は、いくつかのパターンに分かれます。代表的なものを整理すると次のとおりです。
猶予期間内に日本へ帰国し、対象資産を持ち続けていた場合は、出国時の課税が取り消される(なかったことにできる)ことがあります
猶予期間中に実際に資産を売却した場合は、その時点の状況に応じて納税が必要になります
値下がりしていた場合などには、出国時の課税額を見直せる手続きが用意されていることがあります
このように、出国税は「一度かかったら絶対に取り戻せない」ものではなく、その後の行動によって調整できる余地があります。だからこそ、出国時の手続きをきちんと踏んでおくことが、将来の選択肢を残すうえで欠かせません。
移住を考える個人事業主が早めに備えたいこと
まず「自分が対象になりそうか」を確認する
最初の一歩は、自分が制度の対象になりそうかどうかの確認です。証券口座や投資信託の残高をざっと合計し、対象資産が高額の基準に近いかどうかを見ておきましょう。基準に遠く届かない場合は、出国税を過度に心配する必要はありません。一方で、基準に近い、あるいは超えていそうな場合は、移住の計画と並行して税務の準備を進める必要があります。
移住スケジュールと申告・納税の段取りをそろえる
海外移住は、住まいの契約や引っ越し、ビザの手続きなどやることが山積みで、税金の手続きは後回しになりがちです。しかし出国税の申告や納税猶予の手続きは、出国のタイミングと深く結びついています。納税管理人の選定、担保の準備、必要書類の収集には時間がかかるため、移住の数か月前から逆算して段取りを組んでおくと安心です。準備に手が回らないときは、事業の申告部分だけでも確定申告の丸投げ代行にゆだねると、資産の整理に集中できます。
日々の記帳を整えておくことが土台になる
出国税の有無にかかわらず、移住前後は通常の事業所得の申告も必要です。日ごろから帳簿や資料が整理されていれば、出国時の慌ただしいなかでも事業の収支と投資資産の状況をスムーズに把握できます。逆に記帳が滞っていると、移住準備と申告作業が重なって大きな負担になりかねません。普段の経理を整えておくことが、いざというときの備えになります。記帳代行の現場でも、海外転居を控えた個人事業主から「事業の数字だけでも先に整えておきたい」というご相談をいただくことがあります。
よくある質問
Q. 短期間の海外出張や海外勤務でも出国税はかかりますか?
出国税は、日本を出て「非居住者」になる場合を想定した制度です。数日〜数週間の海外出張のように、生活の拠点が日本にあり続ける場合は、通常は対象になりません。ただし、長期の海外赴任などで生活の本拠が海外に移ると判断される場合には関係してくることがあります。滞在の期間や生活実態によって判断が分かれるため、長期の海外移動を予定している方は、事前に確認しておくと安心です。
Q. 預貯金や不動産しか持っていなくても出国税の対象になりますか?
国外転出時課税の対象は、株式や投資信託などの有価証券が中心です。現金・預貯金や不動産そのものは、この制度の直接の対象にはなりません。そのため、資産が預貯金や自宅中心で、有価証券をほとんど持っていない方であれば、出国税を過度に心配する必要は少ないといえます。とはいえ、ご自身の資産構成によって判断が変わるため、心配な場合は一度整理してみることをおすすめします。
Q. 納税猶予を受ければ、税金を払わなくて済むのですか?
納税猶予は、あくまで納税の「時期を後ろにずらす」制度であり、税金そのものが免除されるわけではありません。ただし、猶予期間中に帰国して資産を持ち続けていた場合や、値下がりした場合などには、出国時の課税を取り消したり見直したりできることがあります。猶予を受けたあとも継続の手続きが必要になるため、利用する場合は手続きの全体像を理解したうえで進めましょう。
出国税で迷ったときの結論|早めの把握と段取りで備える
国外転出時課税(出国税)は、一定額以上の有価証券などを持つ人が日本を出国するときに、含み益へ課税される制度です。対象になるのは資産額と居住期間の条件をどちらも満たす方に限られ、対象は有価証券などの金融資産が中心です。すぐに納税できない場合には納税管理人の届け出と担保提供によって納税猶予を受けられ、帰国や値下がりの状況に応じて課税を見直せる余地もあります。大切なのは、移住を考え始めた早い段階で「自分が対象になりそうか」を確認し、申告や猶予の段取りを移住スケジュールに組み込んでおくことです。
海外移住の準備に追われるなかで、資産の時価計算や帳簿の整理、確定申告までをすべて自分でこなすのは、想像以上に骨が折れます。事業の数字が後回しになり、肝心の申告が直前になって慌ただしくなってしまうことも珍しくありません。
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【本記事の監修】
領収書丸投げドットコム 責任者 山下
個人事業主・フリーランス専門の記帳代行サービス「領収書丸投げドットコム」(運営:それいけ株式会社)の責任者として、日々の記帳代行・確定申告サポートの実務知見に基づき本記事の内容を確認しています。本記事は、国税庁など公的機関の公表情報をもとに作成しています。








