実地棚卸の進め方と帳簿棚卸との差異処理|数え方と記録のコツを解説
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税務

実地棚卸は、期末に在庫を実際に数えて期末商品棚卸高を確定させ、その年の売上原価と利益を正しく計算するための作業です。準備から数え方、帳簿棚卸との差異処理、評価方法までを、実務の手順に沿って整理します。
決算期末の実地棚卸は、「やるべきなのはわかるが進め方が今ひとつわからない」という声の多い作業です。在庫を一つひとつ数える地道さに加え、帳簿と数が合わないときの対処に不安を感じる方もいます。まずは基本の流れをつかんでおきましょう。
☑ 決算前の実地棚卸を、何から手をつけてどう進めればよいかわからない
☑ 帳簿上の在庫数と実際に数えた数が合わず、どう処理すればいいか迷っている
☑ 棚卸の数え方や記録の仕方に決まったルールがあるのか知りたい
そもそも実地棚卸とは?まず基本を押さえましょう
実地棚卸と帳簿棚卸の違い
棚卸には、大きく分けて実地棚卸と帳簿棚卸の2種類があります。実地棚卸は、倉庫や店舗にある在庫を実際に数えて、期末時点でどれだけの在庫が残っているかを確認する作業です。一方の帳簿棚卸は、仕入れと売上の記録から「帳簿上はこれだけ在庫が残っているはず」という数量を計算で求める方法です。
帳簿棚卸はいつでも数字を把握できる便利さがありますが、数え間違いや記録漏れ、商品の破損や紛失などは反映されません。そのため、決算期末には実際に数える実地棚卸を行い、帳簿の数字が現実と合っているかを確認することが基本になります。
なぜ棚卸が必要なのか
棚卸が必要な一番の理由は、その年の正しい利益を計算するためです。仕入れた商品のうち、売れずに残っている在庫の金額(期末商品棚卸高)が確定しないと、その年に対応する売上原価が決まりません。
売上原価 = 期首の在庫 + 当期の仕入 − 期末の在庫
期末の在庫が多ければ売上原価は小さくなり、利益は大きく出ます
期末の在庫が少なければ売上原価は大きくなり、利益は小さくなります
このように、期末の在庫金額は利益、ひいては税額に直接かかわります。売上原価を含む必要経費の考え方は、国税庁タックスアンサー「No.2210 必要経費の知識」で確認できます。売上原価が想定とずれて補正が必要になる場面は、売上原価の補正が必要なときの対応もあわせて確認しておくと安心です。だからこそ、当てずっぽうではなく実際に数えて確定させることが大切なのです。
棚卸の対象になるもの
棚卸の対象は、販売目的で仕入れた商品だけではありません。製造業であれば原材料や仕掛品、製品も対象になりますし、消耗品でも期末にまとまった量が残っていれば棚卸資産として扱う場合があります。飲食店のように原価管理が重要な業種の在庫の考え方は、飲食店の原価管理も参考になります。自分の事業でどこまでが棚卸の対象になるのかを、あらかじめ整理しておきましょう。
実地棚卸の進め方|準備から実施まで
事前の準備を整える
棚卸を当日いきなり始めると、混乱して数え漏れやダブりが起きやすくなります。まずは準備から始めましょう。倉庫や棚を整理して同じ商品をまとめておく、数える順番(場所のルート)を決めておく、記録用の棚卸表を用意しておく、といった段取りが当日の作業効率を大きく左右します。
可能であれば、棚卸を行う日は仕入れや出荷を止めるか、最小限にとどめると、「数えた後に動いた在庫」による混乱を防げます。営業しながら行う場合は、何時時点の在庫を数えるのかという基準を決めておくことが大切です。
数える単位と区分を決める
同じ商品でも、箱単位なのか個単位なのかが人によってバラバラだと、数えた結果が信用できなくなります。商品ごとに数える単位を統一しておきましょう。また、次のような区分を意識すると、後の集計や差異の確認がスムーズになります。
正常な在庫(通常どおり販売できるもの)
傷物・型落ち・期限切れなど、通常の価格では売れないもの
預かり品や委託品など、自社の在庫ではないもの
とくに「自社の在庫ではないもの」を在庫に含めてしまうミスは起こりがちです。預かっているだけの商品は棚卸資産から除く、という点を全員で共有しておきましょう。
実際に数えて記録する
数えるときは、棚や場所ごとに区切って進めると漏れを防げます。可能であれば2人1組で、1人が数えて1人が記録する、あるいは別々に数えて突き合わせる方法をとると精度が上がります。数え終えた棚に印や付箋を付けていくと、数え忘れや二重カウントを防ぎやすくなります。
記録には、商品名・数える単位・数量・場所などを記入できる棚卸表を使います。手書きでもエクセルでもかまいませんが、後から「いつ・どこを・誰が数えたか」がわかる形で残しておくことが、差異が出たときの確認に役立ちます。
帳簿棚卸との差異が出たときの処理
まずは差異の原因を探す
実地棚卸の結果と帳簿の在庫数が一致しないことは、珍しくありません。差異が出たからといって、すぐに帳簿を書き換えるのではなく、まずは原因を探しましょう。よくある原因には次のようなものがあります。
数え間違い・数え漏れ・二重カウント
仕入や売上の記録漏れ、入力ミス
商品の破損・紛失・盗難
単位の取り違え(箱と個など)
差異が大きい場合は、もう一度その商品だけを数え直してみると、単純な数え間違いが見つかることもよくあります。原因がはっきりすれば、帳簿側を直すべきか、在庫の数え直しが必要かを判断できます。仕入や売上の記録漏れが見つかったときの直し方は、帳簿の間違いの直し方にまとめています。
棚卸差異(棚卸減耗)の扱い
原因を確認しても、実際の在庫が帳簿より少ないことがあります。破損や紛失などで失われた在庫の差額は、一般に棚卸減耗として処理し、その分は経費(費用)として計上します。期末の在庫金額は、あくまで実際に数えた数量をもとに確定させるのが原則です。破損や廃棄で在庫のロスが出たときの記帳は、在庫のロス・廃棄が出たときの記帳で具体的に扱っています。
逆に、実際の在庫が帳簿より多いケースもあります。この場合は記録漏れなどが疑われますので、原因を確認したうえで、実地棚卸の数量に合わせて在庫を計上します。いずれにしても「実際に存在する在庫」を基準にする、と覚えておくとわかりやすいでしょう。
価値が下がった在庫の評価
数量が合っていても、傷物や売れ残り、流行遅れなどで通常の価格では売れない在庫は、その状態を金額に反映させることを検討します。著しく価値が下がった在庫については、低い金額で評価し、その差額を費用とする評価の方法があります。判断に迷う場合は、無理に自己判断せず専門家に相談すると安心です。数えた在庫を決算・申告にどう落とし込むか不安なときは、棚卸後の記帳を任せる記帳代行という選択肢もあります。
棚卸の金額を確定させる|評価方法の基本
数量に「単価」を掛けて金額にする
実地棚卸で数量が確定したら、次はそれを金額に換算します。基本は「数量 × 単価」ですが、同じ商品でも仕入れた時期によって単価が違うことが多く、どの単価を使うかを決める必要があります。これが棚卸資産の評価方法です。
代表的な評価方法
個人事業主の場合、特に届け出をしなければ最終仕入原価法という方法が原則になります。これは、その年の一番最後に仕入れたときの単価を、期末在庫すべての単価とみなして計算する方法で、手間が少なくわかりやすいのが特徴です。
最終仕入原価法:最後に仕入れた単価で評価する(届け出がない場合の原則)
総平均法・移動平均法:仕入単価を平均して評価する
先入先出法:先に仕入れたものから先に売れたと考えて評価する
どの方法を選ぶかで期末在庫の金額が変わり、利益にも影響します。原則の方法以外を使いたい場合は、原則として事前の届け出が必要になりますので、変更を考えるときは早めに確認しておきましょう。
記録は翌年以降も使えるように残す
棚卸表や評価の計算過程は、その年の決算が終わっても保管しておきましょう。期末の在庫金額は、翌年の「期首の在庫」としてそのまま引き継がれます。記録が残っていれば、翌年の棚卸や、税務署から問い合わせがあったときの説明にも役立ちます。
棚卸をスムーズに進めるコツ
日ごろから在庫を整理しておく
期末だけ頑張ろうとすると、棚卸は一気に大変になります。日ごろから倉庫や棚を整理し、同じ商品をまとめておく、古い在庫を奥に放置しないといった習慣があるだけで、期末の作業はぐっと楽になります。在庫の置き場所が決まっていれば、数えるルートも組みやすくなります。
棚卸表のフォーマットを固定する
毎年同じ様式の棚卸表を使うと、記入する側も集計する側も迷いません。商品名・単位・数量・単価・金額・場所といった項目をあらかじめ決めておき、毎年使い回せるようにしておくと効率的です。エクセルなら、数量と単価を入力すれば金額が自動で出るようにしておくと計算ミスも減らせます。
少額・少量のものはルールを決めて省力化する
すべてを完璧に数えようとすると負担が大きくなります。金額的に小さい消耗品などは「ここまでは棚卸資産として数える」「これ以下は対象外とする」といった自分なりのルールを決めておくと、無理なく続けられます。ただし、毎年同じ基準で行うことが大切です。年によって基準を変えると、利益の比較ができなくなってしまいます。
よくある質問
Q. 在庫がほとんどないサービス業でも棚卸は必要ですか?
販売する商品や原材料の在庫がまったくない事業であれば、棚卸資産として計上するものはなく、実質的に棚卸の作業は不要なこともあります。ただし、転売目的の商品や、まとまった量の消耗品が期末に残っている場合は対象になります。自分の事業に棚卸の対象があるかどうかを、一度整理して確認しておくと安心です。
Q. 棚卸はいつ行えばよいですか?
棚卸は、原則として事業年度の末日(個人事業主であれば12月31日)時点の在庫を確認するものです。実際には年末ぴったりに作業できないこともありますので、その場合は年末に近い日に数え、年末までの在庫の動きを記録で調整して、期末時点の数量に合わせます。いずれにしても「いつ時点の在庫か」を明確にしておくことが大切です。
Q. 帳簿と数が合わないのですが、そのまま帳簿の数字で申告してもよいですか?
原則として、申告に使う期末の在庫は、実際に数えた実地棚卸の数量をもとに確定させます。帳簿上の数字をそのまま使うと、現実と合わない在庫金額になり、利益の計算も正しくなくなってしまいます。差異が出た場合は原因を確認したうえで、実際に存在する在庫を基準に金額を確定させましょう。
棚卸で迷ったときの結論
実地棚卸は、事前に準備を整え、単位と区分を決めて丁寧に数え、結果をきちんと記録するという基本を押さえれば、決して難しい作業ではありません。帳簿と差異が出たときも、すぐに帳簿を書き換えるのではなく原因を探り、実際に存在する在庫を基準に金額を確定させる、という流れをつかんでおけば落ち着いて対応できます。
とはいえ、本業が忙しい中で、在庫を数える作業に加えて記帳から確定申告までをすべて自分で行うのは、大きな負担になりがちです。棚卸の金額をもとに正しく決算を組み、申告まで仕上げるところには、どうしても手間と知識が求められます。記帳代行の現場でも、棚卸の金額を決算にどう反映するかというご相談は毎年多くいただきます。
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【本記事の監修】
領収書丸投げドットコム 責任者 山下
個人事業主・フリーランス専門の記帳代行サービス「領収書丸投げドットコム」(運営:それいけ株式会社)の責任者として、日々の記帳代行・確定申告サポートの実務知見に基づき本記事の内容を確認しています。本記事は、国税庁など公的機関の公表情報をもとに作成しています。








