家族の介護・療養が始まった年の個人事業主の節税と控除を解説
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税金

家族の介護・療養が始まった年は、増えた支出を「経費にならないもの・医療費控除の対象・生活費」に仕分け、扶養や障害者控除を状況に合わせて見直すことが節税の分かれ道になります。売上が落ちた年の赤字の扱いや、最初にそろえる書類まで整理します。
ある日を境に、親や配偶者の介護・療養が生活の中心になることがあります。突然入院や要介護認定の連絡が入り、通院の付き添い、介護サービスの手配、費用の支払いと、これまでになかった出来事が一気に押し寄せてきます。個人事業主として仕事も回しながらとなると、税金のことまで頭が回らないのが正直なところではないでしょうか。
☑ 家族の介護や療養が急に始まり、その年の税金で何をすればいいのか整理できていない
☑ 増えた出費のうち、どれが控除につながって、どれがただの生活費なのか区別がつかない
☑ 介護や看病に時間を取られ、事業の帳簿づけや申告の準備まで手が回らない
ここでは、家族の介護・療養が「始まった年」にしぼって、その年の確定申告で個人事業主が取り組んでおきたいことを、時系列に沿って整理します。支出の仕分け方、扶養や控除を見直すタイミング、事業への影響、最初にそろえる資料まで確認するので、「まず何から手をつければよいか」がはっきりするはずです。
介護・療養が始まった年に、まず起きる3つの変化
介護や療養が始まると、家計にも事業にもいくつかの変化が同時に起こります。節税や控除を考える前に、この年に何が変わったのかを整理しておくと、あとで使える制度が見えやすくなります。
出費が急に増え、種類も混ざり合う
それまでは無かった医療費や介護サービス費、通院の交通費、介護用品の購入費などが毎月発生するようになります。しかも、これらは控除につながる支出と、単なる生活費が入り混じってやってきます。始まった年は特に、何にいくら使ったのかを把握しきれないまま年末を迎えがちです。まずは「支出が増えた」という事実だけでなく、「その中身を仕分ける必要がある」と意識することが第一歩になります。
世帯の状況が変わり、扶養の見直しが必要になる
介護のために親を自宅へ引き取って同居を始めたり、仕送りを始めたりすると、税法上の扶養関係が変わることがあります。また、療養で家族が仕事を辞めたり収入が下がったりした場合も、その家族を扶養に入れられるかどうかの判定が変わります。介護・療養が始まった年は、こうした世帯構成や家族の収入の変化を、税金の面から見直すタイミングでもあるのです。
事業に使える時間が減り、記帳が後回しになる
付き添いや手続きに時間を取られ、これまでどおりに仕事や帳簿づけを進められなくなる方は少なくありません。売上が一時的に落ちることもあれば、逆に領収書やレシートがたまりっぱなしになることもあります。記帳が乱れやすい時期こそ、日々の記帳を記帳代行に預けることで、介護に時間を回しやすくなります。始まった年は、事業の記録そのものが乱れやすい時期だと知っておくと、早めに手を打ちやすくなります。
増えた支出の「仕分け」から始める
介護・療養にまつわる出費は、税金の世界では大きく3つのグループに分かれます。この仕分けができると、どの支出がどの控除につながるのかが見えてきます。
事業の経費にはならないと理解する
まず押さえておきたいのは、家族の介護費用や療養費は、原則として事業の必要経費にはならないということです。介護や看病は、事業を営むために必要な支出ではなく、あくまで私的な支出だからです。個人事業主だからといって、家族の入院費や介護サービス費を事業の経費に入れてしまうと、あとで税務署から指摘を受けるおそれがあります。介護・療養の費用は「経費」ではなく、次に説明する「所得控除」のルートで税負担を軽くする、と頭を切り替えておきましょう。
医療費控除につながる支出をより分ける
増えた支出のうち、医療や療養と結びつきの強いものは医療費控除の対象になり得ます。対象範囲は国税庁タックスアンサーNo.1120「医療費を支払ったとき(医療費控除)」(国税庁 No.1120)で確認できます。始まった年から意識して分けておきたいのは、次のような支出です。
入院・通院・手術・投薬など、病院や薬局で支払った費用
通院のための公共交通機関の運賃(付き添いが必要な場合はその分も)
訪問看護や訪問リハビリなど、医療系の在宅サービスの自己負担分
医師の指示にもとづく療養上の世話にあたる介護サービスの一部
医療費控除は、生計を一にする家族の分をまとめて一人の申告に計上できます。実際に控除でどれくらい戻るかの考え方は医療費控除で戻る金額の考え方にまとめています。介護・療養が始まった年は、本人だけでなく付き添った家族の交通費なども対象になる場合があるため、レシートや領収書を捨てずに残しておくことが大切です。
控除の対象にならない生活費は割り切る
一方で、日常の食費や理美容代、家族の都合で自家用車を使った通院のガソリン代、差額ベッド代の一部など、控除の対象にならない支出も出てきます。これらは無理に控除へ結びつけようとせず、生活費として割り切ることも必要です。「介護や療養で使ったお金がすべて税金で戻ってくるわけではない」と理解しておくと、あとで期待とのずれに戸惑わずにすみます。
その年に見直したい扶養と控除
介護・療養が始まった年は、扶養や控除の前提が変わりやすい年です。前年と同じ感覚で申告すると、使えたはずの控除を取りこぼすことがあります。
扶養に入れられるか、その年の状況で判定する
扶養控除や配偶者控除は、その年の12月31日時点の状況と、対象となる家族のその年の所得で判定します。配偶者控除の要件は国税庁タックスアンサーNo.1191「配偶者控除」(国税庁 No.1191)で確認できます。療養で家族が仕事を辞めて収入が下がった年や、親の面倒を見るようになった年は、これまで扶養に入れていなかった家族が対象になることがあります。特に、離れて暮らす親であっても、生活費や療養費を常に仕送りしているなど「生計を一にする」実態があれば、別居でも扶養に入れられる場合があります。仕送りは現金の手渡しよりも振込にしておくと、あとで実態を説明しやすくなります。
要介護なら障害者控除の対象になることがある
介護が必要な家族について、見落とされやすいのが障害者控除です。障害者手帳を持っていなくても、寝たきりや認知症などで一定の状態にある高齢者は、市区町村から「障害者控除対象者認定書」の交付を受けられることがあります。この認定書があれば、扶養している家族について障害者控除を受けられる可能性があります。要介護認定を受けたからといって自動的に対象になるわけではなく、自治体ごとの基準による認定が必要ですので、介護が始まった段階で一度お住まいの市区町村の窓口に問い合わせてみるとよいでしょう。
控除は重ねて使える場合がある
これらの控除は、要件を満たせば重ねて使えることがあります。たとえば「別居の親を仕送りで扶養に入れ、障害者控除対象者認定書を取得し、さらに医療系の介護費用を医療費控除に計上する」といった組み合わせも考えられます。始まった年こそ「使えるものはどれか」を一度洗い出しておくと、その年だけでなく翌年以降の申告にも活きてきます。
事業への影響と、最初にそろえる資料
節税や控除の話とあわせて、始まった年は事業そのものへの影響も見ておく必要があります。ここを整えておくと、確定申告全体がスムーズになります。
売上が落ちた年は赤字の扱いも確認する
介護や療養に時間を取られて売上が大きく落ち、その年が赤字になることもあります。青色申告をしている個人事業主であれば、事業所得の赤字を翌年以降の黒字と相殺できる純損失の繰越という仕組みがあります。繰り越しの具体的な活用方法は青色申告の赤字を繰り越す純損失の繰越で解説しています。介護のために事業を縮小せざるを得ない場合は、事業を縮小・整理する時期に手元資金を守る節税の順序も参考になります。苦しい年の赤字を「なかったこと」にせず、将来の税負担の軽減につなげられる制度ですので、赤字になりそうな年こそ、きちんと申告しておく意味があります。
介護・家庭の支出と事業の支出を分ける
介護・療養が始まると、事業の支払いと家庭・介護の支払いが混ざりやすくなります。できれば事業用の口座やクレジットカードを1つに集約し、事業の入出金はそこにまとめておくと、あとで仕分ける手間が大きく減ります。分けるための具体的な工夫は事業と家計のお金を分ける記帳のコツにまとめています。介護・療養の費用は医療費控除の候補として別のフォルダや封筒に分けておく、といった単純な工夫だけでも、年末の負担がずいぶん軽くなります。
始まった年からそろえておきたい書類
介護・療養に関する控除を確実に受けるために、始まった年から次のような資料を意識してそろえておくことをおすすめします。
病院・薬局・介護サービスの領収書(医療費控除の対象額の記載があるものは特に大切)
通院や付き添いにかかった交通費のメモや記録
おむつ使用証明書など、控除の根拠となる証明書
別居の親などへの仕送りを示す振込明細
扶養に入れる家族の収入や年金額がわかる書類
確定申告は原則として毎年2月16日から3月15日までが申告期間です。始まった年に資料を整理しておかないと、翌年の申告直前に領収書を探し回り、控除を取りこぼすことになりかねません。事業の帳簿づけとあわせて、介護・療養の書類も一か所にまとめておくと安心です。
よくある質問
Q. 介護や療養が始まったのが年の途中でも、その年から控除は使えますか?
はい、その年に支払った医療費や、その年の状況で判定した扶養などは、始まった年の確定申告から反映できます。医療費控除はその年の1月から12月までに支払った分が対象ですし、扶養控除も年末時点の状況で判定します。「途中から始まったから翌年からしか使えない」ということはありませんので、始まった年の分から忘れずに整理しておきましょう。
Q. 家族の入院費や介護費用を、事業の経費にはできませんか?
原則としてできません。家族の介護費用や療養費は私的な支出であり、事業を営むために必要な費用とはみなされないためです。経費ではなく、医療費控除・扶養控除・障害者控除といった所得控除のルートで税負担を軽くする、という考え方になります。事業の経費と家庭の支出をはっきり分けておくことが、正しい申告の基本です。
Q. 何をどこまで控除できるのか、自分で判断する自信がありません。
介護・療養に関する控除は、対象になる範囲が細かく、家庭ごとに事情も異なります。まずは領収書や証明書を捨てずに残しておくことが何より大切です。そのうえで、判断に迷う部分は税務署の相談窓口や税理士、記帳代行サービスなどに相談すると、取りこぼしを防ぎやすくなります。介護で時間が取りにくい時期だからこそ、抱え込まずに頼ることも一つの方法です。
結論:始まった年の「仕分け」と「見直し」が節税の分かれ道
家族の介護・療養が始まった年は、増えた支出を「経費にならないもの・医療費控除の対象・単なる生活費」に仕分けること、そして扶養や障害者控除といった制度を、その年の状況に合わせて見直すことがポイントです。売上が落ちた年は純損失の繰越も確認し、始まった年から領収書や証明書をそろえておけば、翌年の申告で慌てずにすみます。知っているかどうか、そして早めに整理できているかどうかで、その年の税負担は大きく変わってきます。
介護や看病に向き合いながら、日々の記帳から支出の仕分け、控除の確認、確定申告書類の作成までをすべて自分一人で行うのは、本業が忙しい個人事業主にとって重い作業です。ただでさえ時間の足りない時期に、期限間際で書類を探し回り、使えたはずの控除を取りこぼしてしまうのは避けたいところです。
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【本記事の監修】
領収書丸投げドットコム 責任者 山下
個人事業主・フリーランス専門の記帳代行サービス「領収書丸投げドットコム」(運営:それいけ株式会社)の責任者として、日々の記帳代行・確定申告サポートの実務知見に基づき本記事の内容を確認しています。本記事は、国税庁など公的機関の公表情報をもとに作成しています。








