漁業を営む個人事業主の確定申告|水揚げ収入・燃料費・漁具の経費を解説
#
確定申告

漁業を営む個人事業主の確定申告は、漁協を通した販売も直販も水揚げ収入は総額で計上し、手数料・燃料費・漁具・漁船にかかる費用を必要経費として差し引くのが基本です。水揚げ収入の整理から、漁業ならではの経費、青色申告で気をつけたい点までを整理していきます。
漁業を営む個人事業主の方は、早朝の出漁から水揚げ、漁具の手入れまで一日の仕事量が多く、確定申告のための帳簿づけや書類整理にまで手が回らないという声をよく耳にします。漁協からの精算書や燃料の伝票が溜まっていくのに、何をどう仕分けすればよいのか戸惑ってしまう方も少なくありません。
☑ 漁協を通した水揚げ代金や仲買への直販を、どう収入として整理すればよいかわからない
☑ 燃料費や漁具、漁船のエンジン修理など、漁業ならではの経費の付け方に自信がない
☑ 水揚げのない時期や時化(しけ)で出漁できない月もあり、帳簿づけが後回しになっている
このコラムでは、漁業を営む個人事業主の確定申告について、水揚げ収入の考え方から、燃料費・漁具・漁船といった漁業特有の経費の扱い、青色申告で気をつけたい点までを整理します。自分の漁業所得をどう整理して申告すればよいか、全体の流れをつかんでいきましょう。
漁業の所得は「事業所得」が基本です
個人で営む漁業は事業所得として申告します
沿岸漁業や定置網、養殖など、個人事業主として漁業を営んでいる場合、その収入は原則として事業所得に区分されます。1年間(1月1日〜12月31日)の水揚げによる収入から、漁にかかった必要経費を差し引いた金額が事業所得となり、これに対して所得税が計算されます。
農業と同じく漁業も自然を相手にする仕事ですが、税務上は他の事業と同様に「収入−必要経費=所得」という基本の考え方で計算します。まずは1年分の収入と経費をきちんと集計することが出発点です。
申告期間と必要な書類
確定申告の期間は、原則として毎年2月16日から3月15日までです。事業所得を申告するには、青色申告の方は「青色申告決算書」、白色申告の方は「収支内訳書」を作成し、確定申告書と一緒に提出します。漁協からの精算書、燃料や氷の購入伝票、漁具店の領収書などをもとに、1年分の収支を確定させてから記入に進むとスムーズです。
会社勤めをしながら漁に出ている場合
会社員として給与をもらいながら、休日や早朝に漁をして収入を得ている方もいます。この場合、漁による所得が一定額を超えると確定申告が必要です。給与所得と事業所得(または雑所得)を合算して申告することになるため、漁の収支も給与とは別に整理しておきましょう。規模や継続性によって事業所得か雑所得かの判断が分かれることがあるため、迷う場合は税務署や専門家に確認すると安心です。
水揚げ収入の整理のしかた
漁協を通した販売の収入
多くの漁業者は、水揚げした魚を漁協(漁業協同組合)の市場を通して販売します。漁協からは販売代金の精算書が届きますが、ここで注意したいのは、手数料が差し引かれる前の販売金額の総額を収入として計上するという点です。漁協が差し引く販売手数料や市場使用料は、収入から直接引くのではなく、必要経費として別に計上します。
精算書に「販売金額」「手数料」「差引支払額」といった内訳が書かれている場合、通帳に振り込まれた差引後の金額だけを収入にしてしまうと、収入も経費も実態より小さくなってしまいます。総額を収入、手数料を経費として両建てで記録するのが正しい整理のしかたです。
仲買や直販・個人向け販売の収入
仲買業者へ直接卸した売上
飲食店や個人へ直接販売した売上
道の駅や直売所、ネット販売を通じた売上
近年は漁協を通さず、自分で販路を広げて販売する方も増えています。こうした直販の収入も、もちろんすべて事業収入として計上が必要です。現金で受け取った売上は通帳に記録が残らないため、漏れやすいポイントです。販売のたびにメモや控えを残し、確実に集計できるようにしておきましょう。
補助金や共済金などの扱い
燃油高騰対策の補填金や、漁業共済・積立ぷらすなどの共済金を受け取ることがあります。これらは内容によって収入として計上すべきものがあり、扱いを誤ると申告漏れにつながりかねません。受け取った通知書や明細は捨てずに保管し、どう扱うべきか判断に迷うときは、安易に自己判断せず専門家に確認するのが安全です。
漁業ならではの経費を押さえましょう
燃料費・氷代・餌代など出漁にかかる費用
漁業では、出漁のたびにかかる費用が経費の大きな割合を占めます。代表的なものは次のとおりです。
燃料費…漁船の軽油や重油、ガソリン代
氷代・梱包資材費…鮮度保持の氷、発泡スチロール箱、トロ箱など
餌代・仕掛け代…釣り漁や延縄(はえなわ)で使う餌、針、テグスなど
漁協への販売手数料、市場使用料
燃料費は金額が大きくなりやすいため、給油のたびに伝票や領収書をきちんと受け取り、まとめて保管しておくことが大切です。家庭用の車のガソリンと漁船の燃料を同じカードで支払っている場合は、漁業に使った分だけを経費にできるよう、区別して記録しておきましょう。
漁具・網・ロープなどの費用
網、ロープ、釣り具、カゴ、浮き、救命胴衣といった漁具も必要経費になります。比較的安価なものや消耗が早いものは、買ったその年の経費(消耗品費など)として計上できます。一方、定置網一式のように高額で長く使うものは、後述する減価償却の対象になる場合があります。
漁具は海中で傷んだり流失したりすることもあり、買い替えの頻度が高い道具です。購入時の領収書はもちろん、何をいつ買ったかがわかるように整理しておくと、経費の集計が楽になります。
漁船・エンジン・船舶保険などの費用
漁船そのものや船外機・エンジンは高額な設備にあたるため、購入費を一度に経費にするのではなく、法定の耐用年数にわたって少しずつ経費にしていく減価償却という方法で計上します。あわせて、次のような船にまつわる費用も経費になります。
エンジンや船体の修理費・メンテナンス費
船舶保険料、漁船の登録・検査にかかる費用
係留(けいりゅう)・停泊にかかる費用
漁業権の行使にともなう負担金、漁協の組合費など
修理費でも、エンジンの載せ替えのように船の価値を大きく高める大規模なものは、修繕費ではなく資産として減価償却の対象になることがあります。金額が大きい支出は、その都度どう処理するか確認しておくと安心です。
家事按分と在庫の考え方
自宅兼用や車の費用は家事按分で
自宅の一部を漁具の保管や事務作業に使っている場合や、漁の道具を運ぶために自家用車を使っている場合、その費用のうち漁業に使った割合だけを経費にできます。これを家事按分(かじあんぶん)といいます。電気代、通信費、車のガソリン代や車検費用などが対象になりやすい費用です。溜まった伝票の整理から申告書の作成まで任せたいときは、確定申告の丸投げ代行という手もあります。
按分の割合は、使用時間や使用日数など合理的な基準で決め、なぜその割合にしたのかを説明できるようにしておきましょう。実態とかけ離れた割合で経費にすると、税務署から指摘を受ける原因になります。
獲った魚を自分で食べた場合
水揚げした魚を自分や家族で消費することもありますが、商品として販売できるものを自家消費した場合は、その分を収入として計上するのが原則です。とはいえ家庭で食べる範囲のものすべてを細かく計上する必要があるかは状況によりますので、判断に迷う場合は専門家に相談しましょう。
年末の在庫(棚卸し)
年末時点で、まだ販売していない冷凍の魚や、買い置きした餌・資材などが残っていることがあります。販売用の在庫や貯蔵品は、年末に数えて棚卸資産として計上する必要があります。棚卸の具体的な進め方は決算の棚卸(実地棚卸)の実務にまとめています。仕入れた餌や資材のうち、その年に使い切らなかった分は翌年に繰り越すという考え方です。漁業では在庫管理が見落とされがちですが、所得の計算に影響するため意識しておきましょう。
青色申告で漁業所得を申告するメリット
青色申告特別控除で所得を圧縮できる
事前に届け出をして帳簿をきちんとつけることで、青色申告を選べます。複式簿記で記帳し要件を満たすと、最大で65万円の青色申告特別控除を受けられ、漁業所得を大きく圧縮できます。簡易な記帳の場合は10万円の控除となります。水揚げの多い年ほど、この控除の効果は大きくなります。
赤字を翌年以降に繰り越せる
漁業は天候や不漁、燃料価格の変動など、年によって収支が大きく上下する仕事です。青色申告なら、その年に赤字(純損失)が出た場合に、原則として翌年以降の所得と相殺できる繰越しの仕組みを使えます。制度の詳しい使い方は青色申告の赤字の繰越しの活用が参考になります。豊漁の年と不漁の年の差が大きい漁業とは相性のよい制度といえます。
家族への給与を経費にできる
家族と一緒に漁や水揚げ作業、出荷準備をしている場合、事前の届け出をして青色事業専従者給与の要件を満たせば、家族に支払う給与を経費にできます。要件は国税庁タックスアンサーNo.2075「青色事業専従者給与と事業専従者控除」で確認でき、金額の考え方は専従者給与の金額の試算にまとめています。家族総出で営むことの多い漁業では、活用を検討する価値のある制度です。労働の実態に見合った金額にすることが前提となります。
よくある質問
Q. 漁協から届く精算書だけで確定申告はできますか?
漁協の精算書は水揚げ収入を把握するうえで重要な書類ですが、それだけでは申告は完結しません。燃料費や漁具、修理費などの経費は精算書には載らないため、それぞれの領収書や伝票をもとに集計する必要があります。また、漁協を通さない直販の売上も自分で記録しておく必要があります。精算書は収入の根拠資料のひとつと考え、経費の証憑(しょうひょう)もあわせて保管しておきましょう。
Q. 燃料費が高騰した年は、経費が増えて赤字になりました。それでも申告は必要ですか?
赤字であっても、青色申告で純損失の繰越しを使いたい場合は申告しておくことをおすすめします。申告して赤字を確定させておけば、翌年以降に利益が出たときにその赤字と相殺でき、結果として税負担を抑えられる可能性があります。また、所得を証明する必要がある場面でも、申告書の控えが役立ちます。
Q. 漁に出ない時期はどう帳簿をつければよいですか?
出漁しない時期でも、漁具の修理代、船の係留費、保険料、漁協の組合費など、年間を通して発生する費用があります。これらも漏れなく経費に計上できるよう、その都度記録しておきましょう。時化や禁漁期で時間に余裕のある時期に、溜まった伝票をまとめて整理しておくと、申告時期に慌てずに済みます。
結論|漁業の収支は総額で記録するのが基本
漁業を営む個人事業主の確定申告は、漁協を通した販売も直販も水揚げ収入は総額で計上し、手数料・燃料費・漁具・漁船にかかる費用などを必要経費として正しく差し引くことが基本です。高額な漁船やエンジンは減価償却、年末の餌や在庫は棚卸しといった漁業ならではのポイントを押さえれば、所得の計算はぐっと整理しやすくなります。青色申告を活用すれば、特別控除や赤字の繰越しといった、収支の波が大きい漁業に心強い仕組みも使えます。
ただ、早朝からの出漁や水揚げ、漁具の手入れに追われる中で、溜まった精算書や伝票を整理し、記帳から申告書の作成まで自分一人で行うのは重くのしかかります。漁の合間や夜間に慣れない帳簿づけと格闘するより、専門家の力を借りるのも賢い選択肢のひとつです。
領収書丸投げドットコムなら、漁協の精算書や燃料・漁具の領収書、請求書を郵送かスマホ撮影で送るだけで、日々の記帳から確定申告書類の作成まで税理士監修のもとサポートします。まずは漁の合間の記帳を手放せるか相談する(無料)ところから始めてみてください。相談は無料です。依頼から開始までの流れはご利用の流れでご確認いただけます。
あわせて読みたい:業種別フリーランスの確定申告まとめ|このテーマの全体像を1本にまとめて解説しています。
【本記事の監修】
領収書丸投げドットコム 責任者 山下
個人事業主・フリーランス専門の記帳代行サービス「領収書丸投げドットコム」(運営:それいけ株式会社)の責任者として、日々の記帳代行・確定申告サポートの実務知見に基づき本記事の内容を確認しています。本記事は、国税庁など公的機関の公表情報をもとに作成しています。








