従業員の賞与・寸志を支給したときの源泉徴収と記帳をやさしく解説
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税務

従業員に賞与や寸志を支給したときは、名称にかかわらず給与として源泉徴収します。賞与は毎月の給与とは別の「算出率の表」で税額を求め、社会保険料の控除や賞与支払届、預り金としての記帳までをセットで押さえる必要があります。
「寸志だから少額だし税金は関係ない」——そう考えて処理すると、あとで源泉徴収漏れが分かって慌てることがあります。賞与も寸志も税務上は給与の一種で、扱いの基本は共通しているため、まず全体像から押さえるのが近道です。
☑ 従業員に夏のボーナスを払いたいが、源泉徴収の金額がいくらになるのか計算方法がわからない
☑ 「寸志」として渡した数万円も、給与と同じように税金を引かなければいけないのか不安だ
☑ 賞与を支給したときの帳簿づけや、社会保険料の扱いをどう処理すればよいか自信がない
個人事業主として従業員を雇い、初めて賞与や寸志を支給するとき、「毎月の給与とは計算の仕方が違うのだろうか」「源泉徴収はどうすればよいのだろう」と戸惑う方は少なくありません。賞与は毎月発生するものではないため、いざ支給する段になって慌ててしまうケースもよく見られます。
以下では、従業員に賞与や寸志を支給したときの源泉徴収の考え方と、賞与にかかる社会保険料、そして帳簿への記帳のしかたを、初めての方にもわかりやすく説明します。支給額の計算から仕訳までの流れが、ひととおりイメージできるように進めます。
賞与・寸志も「給与」の一種です
賞与と寸志は税務上どう扱われるのか
まず押さえておきたいのは、ボーナス(賞与)も寸志も、税務上は給与の一種として扱われるという点です。名称が「ボーナス」でも「寸志」でも「特別手当」でも、従業員の労働の対価として支払うお金であれば、所得税の源泉徴収の対象になります。「寸志だから少額だし、税金は関係ない」と考えてしまいがちですが、これは誤解です。
賞与とは、毎月支払う給与とは別に、夏や冬などにまとめて支給するものを指します。寸志は本来「ほんの気持ち」という意味の言葉ですが、雇っている従業員に対して労いの意味で渡すお金であれば、実態は賞与と変わりません。金額の大小にかかわらず、従業員に支払う以上は給与として処理するのが原則です。
毎月の給与とは源泉徴収の計算方法が違う
賞与が毎月の給与と大きく異なるのは、源泉徴収税額の計算方法です。毎月の給与は「給与所得の源泉徴収税額表」を使いますが、賞与は「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」という別の表を使って計算します。同じ給与でも参照する表が違うため、ここを取り違えると正しい税額になりません。
賞与の源泉徴収は、その従業員の前月の給与額と扶養親族の人数をもとに「税率」を求め、それを賞与額に掛けて計算するという独特の仕組みになっています。次の章でその流れを具体的に見ていきましょう。
賞与の源泉徴収税額の計算の流れ
ステップ1 社会保険料を差し引いた金額を出す
賞与の源泉徴収を計算する前に、まず賞与の総支給額から社会保険料(健康保険・厚生年金・雇用保険など)を差し引きます。この社会保険料を引いたあとの金額が、源泉所得税を計算する際の基礎になります。手当を含めた総支給額にそのまま税率を掛けるわけではない点に注意しましょう。
ステップ2 「算出率」を求める
次に、国税庁が公表している「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使って、その従業員に適用する税率(算出率)を求めます。表の見方は次のとおりです。
その従業員の前月の社会保険料控除後の給与額を確認する
扶養控除等申告書で届け出ている扶養親族等の人数を確認する
前月給与額と扶養人数が交わる欄にある税率を読み取る
前月の給与をもとにするのは、賞与だけを見るとその月の所得が極端に大きく見えてしまい、適切な税率を当てはめにくいためです。前月の給与水準から「だいたいこのくらいの所得がある人」と見当をつけて、賞与にふさわしい税率を決める仕組みになっています。
ステップ3 税率を掛けて源泉所得税を算出する
ステップ1で求めた「社会保険料を引いたあとの賞与額」に、ステップ2で求めた算出率を掛けると、その賞与から源泉徴収すべき所得税額が計算できます。たとえば社会保険料控除後の賞与が30万円で、算出率が4.084%であれば、源泉徴収税額はおよそ1万2千円程度になる、というイメージです。実際の率は前月給与と扶養人数によって変わるため、必ず最新の表で確認してください。
なお、扶養控除等申告書を提出していない従業員の場合は、より高い税率が適用される別の区分(乙欄)で計算します。従業員から申告書を受け取っているかどうかを、支給前に確認しておきましょう。
賞与にかかる社会保険料の扱い
賞与からも社会保険料を控除する
従業員を社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入させている場合、賞与からも社会保険料を控除する必要があります。賞与にかかる社会保険料は、賞与の支給額から千円未満を切り捨てた「標準賞与額」に保険料率を掛けて計算します。毎月の給与とは別に、賞与を支給するたびに計算する点を覚えておきましょう。標準賞与額の扱いや健康保険の保険料率は、全国健康保険協会(協会けんぽ)で確認できます。
雇用保険料は実際の賞与額で計算する
健康保険・厚生年金が標準賞与額を使うのに対し、雇用保険料は賞与の総支給額にそのまま雇用保険料率を掛けて計算します。同じ社会保険でも計算のもとになる金額が異なるため、それぞれ分けて考えると混乱しにくくなります。
賞与支払届の提出も忘れずに
従業員に賞与を支給したときは、年金事務所などへ賞与支払届を提出する手続きが必要です。これを提出することで、従業員の将来の年金額に賞与分が反映されます。源泉徴収や記帳だけでなく、こうした届け出が必要になる点も、賞与ならではの実務といえます。提出期限は支給後すみやかにとされているため、支給と合わせて準備しておくと安心です。賞与支払届の様式や提出先は日本年金機構で確認できます。
なお、従業員を雇う事業者は、賞与や社会保険の実務とあわせて、雇用を支える助成金にも目を向けておくと役立ちます。高齢者を長く雇う場合は65歳超雇用推進助成金、育児と仕事の両立を支える場合は両立支援等助成金の出生時両立支援コースといった制度が用意されています。
賞与を支給したときの記帳・仕訳
基本となる仕訳の考え方
賞与を支給したときは、毎月の給与と同じように「給料賃金」や「賞与」といった経費の勘定科目で総支給額を計上し、そこから源泉所得税・社会保険料などの預り金を差し引いて、実際に従業員へ渡す金額(差引支給額)を計算します。預り金として一旦お預かりした源泉所得税や社会保険料は、後日まとめて納付します。
イメージとしては、総支給額を経費として計上しつつ、従業員に代わって預かった税金や保険料を「預り金」という負債で記録し、残りを現金や預金から支払う、という形です。
具体的な仕訳のイメージ
たとえば賞与の総支給額が30万円、源泉所得税が約1万円、社会保険料の従業員負担分が約4万5千円だった場合、差引支給額は約24万5千円です。このとき、賞与30万円を経費に計上し、源泉所得税と社会保険料を預り金として記録し、差引の24万5千円を口座から振り込んだ、という流れで帳簿に記載します。
総支給額(賞与)……経費として計上
源泉所得税……「預り金」として計上し、原則翌月10日までに納付
社会保険料の従業員負担分……「預り金」として計上し、後日納付
差引支給額……現金または預金から支払い
事業主自身の取り分は経費にならない
注意したいのは、個人事業主本人が自分の取り分として受け取るお金は、従業員の賞与とは扱いが異なる点です。個人事業の場合、事業主自身への「賞与」や「給与」は経費(必要経費)にできません。事業のお金を生活費などに回した場合は「事業主貸」として処理します。経費にできるのはあくまで、雇っている従業員に支払う賞与や寸志である、という線引きを押さえておきましょう。
賞与は毎月発生しないぶん、いざ支給するときの仕訳や預り金の管理に手間取りがちです。賞与も含めた給与まわりの記帳を任せたい方は、賞与や給与の記帳を任せる記帳代行もあります。
源泉徴収した税金の納付と年末調整
預かった源泉所得税はいつ納める?
賞与から源泉徴収した所得税は、原則として支給した月の翌月10日までに、毎月の給与から預かった分とまとめて納付します。給与を支払う従業員が常時10人未満の事業所であれば、申請により年2回にまとめて納付できる「納期の特例」を利用することもできます。この特例を使うと事務負担が軽くなるため、小規模な事業所では活用を検討するとよいでしょう。
賞与分も年末調整で精算する
賞与から源泉徴収した所得税は、あくまで概算で先に預かっているものです。1年間に支払った給与・賞与の合計と、各種控除をもとに正しい年税額を計算し、預かりすぎ・不足を精算するのが年末調整です。賞与分も含めて1年分をまとめて精算するため、賞与を支給した記録は年末調整までしっかり残しておきましょう。支給控えや証ひょうを電子データで残す際のルールはPDF領収書・電子レシートの保存方法も参考になります。
よくある質問
Q. ごく少額の寸志でも源泉徴収は必要ですか?
従業員に対して労働の対価や労いとして渡すお金であれば、少額の寸志でも給与として源泉徴収の対象になるのが原則です。前月の給与額や扶養人数によっては結果的に税額が出ないこともありますが、「寸志だから無条件で税金はかからない」というわけではありません。金額の大小で判断せず、まずは賞与として計算してみることが大切です。
Q. アルバイトやパートに支給する寸志も同じ扱いですか?
雇用している従業員であれば、アルバイトやパートであっても賞与・寸志の源泉徴収の考え方は基本的に同じです。ただし、扶養控除等申告書を提出しているかどうかで適用する区分(税率)が変わります。掛け持ちなどで他の勤務先に申告書を出している方には高い税率の区分が適用されるため、申告書の提出状況を確認しておきましょう。
Q. 取引先や個人事業の手伝いをしてくれた人へのお礼は賞与になりますか?
雇用関係にない方へのお礼は「賞与」ではなく、別の科目で処理することになります。たとえば外部の方に仕事を依頼した報酬であれば外注費などにあたり、内容によっては報酬として別の源泉徴収のルールが関わることもあります。あくまで従業員への賞与・寸志と、外部の方へのお礼は分けて考える必要があります。判断に迷う場合は専門家に確認すると安心です。
賞与・寸志は「給与として計算する」が出発点
従業員への賞与や寸志は、名称にかかわらず給与の一種であり、毎月の給与とは別の表を使って源泉徴収税額を計算します。前月の給与額と扶養人数から税率を求め、社会保険料を差し引いた賞与額に掛けるという流れと、賞与にかかる社会保険料や賞与支払届、預り金としての記帳までをセットで押さえておけば、初めての支給でも落ち着いて対応できます。少額の寸志でも給与として考えるのが出発点だ、という点を忘れないようにしましょう。
源泉徴収税額の計算、社会保険料の控除、仕訳、納付、年末調整——賞与をめぐる手続きは想像以上に多く、本業の合間にすべて自分で行うのは大きな負担になりがちです。数字を間違えれば従業員との信頼にも関わるだけに、不安を抱えたまま処理を進めるのは避けたいところです。
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【本記事の監修】
領収書丸投げドットコム 責任者 山下
個人事業主・フリーランス専門の記帳代行サービス「領収書丸投げドットコム」(運営:それいけ株式会社)の責任者として、日々の記帳代行・確定申告サポートの実務知見に基づき本記事の内容を確認しています。本記事は、国税庁など公的機関の公表情報をもとに作成しています。








