従業員が退職したときの精算実務|源泉・住民税・社会保険の手続きを解説
#
税務

従業員が退職したときの精算は、最後の給与を確定させ、源泉徴収票の交付、住民税の切り替え、社会保険・雇用保険の資格喪失の順で進めれば整理できます。退職日が月末かどうかで変わる社会保険料の扱いや、各手続きの期限の目安まで確認していきます。
従業員が一人でも辞めると、給与の最終精算から税金・社会保険の届出まで、思った以上に多くの手続きが同時に発生します。普段は人を雇っていない、あるいは数名の小さな事業だと、退職のたびに「前回はどうやったか」と手探りになりがちです。まずは全体像と期限をつかむことから始めましょう。
☑ 従業員が退職することになったが、何から手続きすればよいかわからない
☑ 源泉徴収票や住民税、社会保険の届出のうち、どれをいつまでに出すのか整理できていない
☑ 最後の給与の精算で、控除する金額を間違えないか不安だ
ここでは、事業主側が行う精算実務を、源泉所得税・住民税・社会保険という3つの柱に分けて整理します。退職日が決まってから手続きが完了するまでの流れと、それぞれの期限の目安が見通せるようになります。
退職時の手続きの全体像をつかみましょう
大きく分けて4つの実務がある
従業員の退職にあたって事業主が行う精算実務は、おおまかに次の4つに整理できます。これらが同時並行で進むため、一覧で把握しておくと抜け漏れを防ぎやすくなります。
最後の給与・退職金の計算と支払い
源泉所得税に関する手続き(源泉徴収票の交付など)
住民税に関する手続き(特別徴収の切り替え届出など)
社会保険・雇用保険の資格喪失手続き
給与の精算がすべての出発点になります。最後の給与額が確定しないと、源泉徴収票の金額も社会保険料の控除額も決まらないためです。まずは退職日と最終給与の支払日をはっきりさせることから始めましょう。
記帳代行の現場でも、退職者が出た月は給与計算と各種届出が重なり、ご相談が増える時期です。日々の記帳や給与まわりの事務をまとめて軽くしたい場合は、記帳代行というやり方もあります。
退職日によって手続きが変わる点に注意
同じ「退職」でも、月の途中で辞めるのか、月末で辞めるのかによって社会保険料や住民税の扱いが変わります。特に社会保険は、退職日が「月末」か「月末以外」かで、最後の月の保険料を控除するかどうかが変わるという独特のルールがあります。退職日が決まった段階で、その日が月末かどうかを意識しておくと、後の計算でつまずきにくくなります。
従業員に渡す書類・返してもらう物の確認
手続きと並行して、従業員との物のやり取りも発生します。事業主から従業員に渡すものとしては源泉徴収票や離職票、雇用保険被保険者証などがあり、逆に従業員から返してもらうものとしては健康保険証(被保険者証)や貸与品などがあります。退職当日にあわてないよう、渡すもの・返してもらうものをリスト化しておくと安心です。
最後の給与の精算で押さえるポイント
最終給与から控除するもの・しないもの
最後の給与でも、通常どおり源泉所得税と社会保険料、住民税などを控除するのが基本です。ただし前述のとおり、社会保険料は退職日によって最後の月の分を控除するかどうかが変わります。給与計算ソフトを使っていても、退職者の設定を間違えると控除額がずれてしまうため、最終給与は手計算でも一度検算しておくと安心です。毎月の給与や賞与から所得税を天引きする基本的な流れは給与・賞与から源泉徴収する実務に整理しています。
未払いの残業代や日割り計算
月の途中で退職する場合、給与を日割りで計算するケースがあります。日割りの方法は就業規則や雇用契約で定めた方法に従うのが原則です。また、確定している残業代や未消化の手当などがあれば、最後の給与でまとめて精算します。給与の支払いに関するルールは法律で定められた部分もあるため、自己流で判断せず、社内のルールと照らし合わせて進めましょう。
退職金を支払う場合の税金の扱い
退職金を支払う場合、その税金の計算は通常の給与とは別の方法で行われます。退職金は「退職所得」として、勤続年数に応じた退職所得控除を差し引いたうえで、税負担が軽くなるしくみが設けられています。従業員から「退職所得の受給に関する申告書」を提出してもらうことで、適正な源泉徴収ができます。この申告書がないと源泉徴収の方法が変わり、従業員の手取りに影響するため、退職金を支払う際は提出を忘れないよう案内しましょう。
源泉所得税に関する手続き
源泉徴収票の作成と交付
従業員が退職したら、その年の1月1日から退職日までの給与をもとに源泉徴収票を作成し、本人に交付します。退職者は転職先で年末調整を受ける際にこの源泉徴収票を提出したり、自分で確定申告をする際に使ったりするため、退職後すみやかに渡すことが求められます。給与計算ソフトを使っていれば、退職者の情報をもとに源泉徴収票を出力できる場合が多いので活用しましょう。
退職者の年末調整は原則しない
年の途中で退職した従業員については、原則として事業主側で年末調整を行いません。退職者本人が、再就職先での年末調整、または自分での確定申告で1年間の税額を精算することになります。事業主が行うのは、退職日までの給与・控除額を正しくまとめた源泉徴収票を交付するところまで、と整理しておくとわかりやすいでしょう。
納付や法定調書のスケジュール
退職者から預かった源泉所得税は、ほかの従業員の分とあわせて、決められた期日までに納付します。また、その年の給与支払いをまとめた法定調書(給与所得の源泉徴収票合計表など)は、翌年の所定の時期に税務署へ提出します。なお、外注先やフリーランスへの支払いでも源泉徴収が必要になる場合があり、その要否の見分け方は源泉徴収が必要な支払い・不要な支払いの見分け方にまとめています。退職者がいた年も、これらの定例の手続きの中に退職者分を漏れなく含めることが大切です。
住民税の切り替え手続き
特別徴収から普通徴収などへの切り替え
住民税を給与から天引きする「特別徴収」を行っていた場合、従業員の退職にともなって徴収方法を切り替える必要があります。退職後の住民税は、本人が自分で納める「普通徴収」に切り替わるか、転職先で引き続き特別徴収されるか、または退職時にまとめて天引き(一括徴収)するか、いずれかの方法で処理します。どの方法になるかは、退職する時期や本人の希望によって変わります。特別徴収の基本的な仕組みは、総務省「個人住民税」の解説(総務省・地方税制度)でも確認できます。
市区町村への異動届の提出
特別徴収を行っていた事業主は、従業員が退職した際に「給与所得者異動届出書」を、その従業員が住む市区町村へ提出します。この届出によって、市区町村側で住民税の徴収方法が切り替えられます。提出先や様式は市区町村ごとに案内されているため、わからない場合は該当の市区町村の窓口やホームページで確認しましょう。
退職時期による住民税の負担の違い
住民税は前年の所得をもとに計算され、当年の6月から翌年5月にかけて納める仕組みです。そのため、たとえば年明けから5月までの間に退職する場合は、残りの住民税を最後の給与などから一括で徴収するルールが設けられています。退職する月によって最後の給与からの控除額が大きく変わることがあるので、従業員にもあらかじめ説明しておくとトラブルを防げます。
社会保険・雇用保険の資格喪失手続き
健康保険・厚生年金の資格喪失届
社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入していた従業員が退職したときは、年金事務所などへ資格喪失届を提出します。あわせて、従業員から健康保険証(被保険者証。本人分と扶養家族分)を回収して返却します。提出先や期限などの詳細は日本年金機構の案内で確認できます。退職後すぐに必要となる手続きで、提出期限も短めに定められているため、退職日が決まったら早めに準備を始めましょう。
雇用保険の資格喪失と離職票
雇用保険に加入していた場合は、ハローワークへ雇用保険被保険者資格喪失届を提出します。退職した従業員が失業給付を受ける可能性があるときは、あわせて離職証明書を提出し、離職票を発行してもらって本人に渡します。離職票は従業員が失業給付の手続きをする際に必要になる重要な書類なので、本人から不要との申し出がない限り、忘れず手配しましょう。
退職後の保険の選択肢を案内する
退職後、すぐに次の勤務先が決まっていない従業員は、健康保険を「任意継続」にするか、国民健康保険に加入するかなどを選ぶことになります。年金についても国民年金への切り替えが必要です。これらは基本的に従業員本人が手続きするものですが、退職時に選択肢があることを一言案内しておくと、従業員が困らずにすみます。なお、退職が事業の縮小や整理と重なる局面では、事業主自身の資金繰りも合わせて考えたいところで、事業を縮小・整理する時期に手元資金を守る節税の順序が参考になります。
よくある質問
Q. 月の途中で退職した場合、最後の月の社会保険料はどうなりますか?
社会保険料は、退職日が月末かどうかで最後の月の扱いが変わります。月末以外の日に退職した場合は、原則としてその月分の社会保険料は給与から控除しない扱いになります。一方、月末に退職した場合はその月分も控除の対象になります。判断に迷うときは、年金事務所や顧問の専門家に確認すると確実です。
Q. 源泉徴収票はいつまでに渡せばよいですか?
退職した従業員には、退職後すみやかに源泉徴収票を交付することが求められています。退職者は転職先の年末調整や自分の確定申告でこの書類を使うため、最後の給与額が確定したら、できるだけ早く作成して渡しましょう。郵送で渡す場合も、退職後あまり時間を空けないことが大切です。
Q. 退職した従業員から「確定申告が必要か」と聞かれました。どう答えればよいですか?
年の途中で退職し、その年のうちに再就職しなかった場合などは、本人が確定申告をすることで納めすぎた税金が還付されることがあります。事業主から渡す源泉徴収票が、その確定申告の基礎資料になります。具体的な要否は本人の状況によるため、「源泉徴収票をもとに、必要に応じてご自身で確定申告を検討してください」と案内するのが無難です。
まとめ|退職精算は「給与→税金→保険」の順で整理する
従業員の退職にともなう精算実務は、最後の給与を確定させ、源泉所得税(源泉徴収票の交付)、住民税(特別徴収の切り替え)、社会保険・雇用保険(資格喪失と離職票)の順で進めると整理しやすくなります。退職日が月末かどうか、退職する時期がいつかによって控除額や手続きが変わる点を押さえておけば、一つひとつは決して難しいものではありません。渡す書類・返してもらう物のリスト化も、抜け漏れ防止に役立ちます。
退職手続きのたびに給与計算から届出、源泉徴収票の作成まで一人で抱えるのは、思った以上に神経を使う作業です。日々の記帳や給与まわりの事務をまとめて手放したいときは、外部に任せる選択肢もあります。
領収書丸投げドットコムは、領収書や請求書を郵送またはスマホ撮影で送るだけで、日々の記帳から確定申告書類の作成まで代行します。何枚でも定額 月額6,600円(税込)・初期費用0円、税理士監修で対応しています。まずは退職の手続きに追われる状況を無料で相談してみるところから始めてみてください。相談は無料で、無理な勧誘はありません。あわせて料金プランを確認することもできます。
【本記事の監修】
領収書丸投げドットコム 責任者 山下
個人事業主・フリーランス専門の記帳代行サービス「領収書丸投げドットコム」(運営:それいけ株式会社)の責任者として、日々の記帳代行・確定申告サポートの実務知見に基づき本記事の内容を確認しています。本記事は、国税庁など公的機関の公表情報をもとに作成しています。








