個人と法人の二刀流で報酬を分散する節税設計|社会保険料も含めて解説
#
税金

個人と法人の二刀流は、事業所得と役員報酬に報酬を分散し、所得税の累進と法人税率の差・給与所得控除を使う節税設計です。ただし社会保険料まで含めて考えないと得にならないこともあります。仕組みとメリット、見落としやすい注意点を整理します。
事業が軌道に乗ってくると、「このまま個人事業を続けるべきか、法人をつくった方が得なのか」という悩みが出てきます。なかでも近年よく話題になるのが、個人事業を残したまま法人もつくり、報酬を両者に分散させる「二刀流」の節税設計です。所得税の累進構造や法人税率との差をうまく使う考え方ですが、社会保険料という見落とされがちなコストまで含めて考える必要があります。
☑ 個人事業がうまくいってきて、法人化すべきか迷っている
☑ 「個人と法人の二刀流」で税金が安くなると聞いたが、仕組みがよくわからない
☑ 法人をつくると社会保険料の負担が増えると聞いて、二の足を踏んでいる
この後は、個人と法人に報酬を分散させる節税設計の基本的な考え方と、そのメリット・注意点を、社会保険料の影響も含めて整理します。自分の事業規模で二刀流を検討する価値があるかどうか、判断の材料をつかんでいきましょう。
なぜ「個人と法人の二刀流」が節税になるのか
所得税は累進、法人税はおおむね一定
個人の所得にかかる所得税は、所得が大きくなるほど税率が上がる累進課税です。所得税と住民税を合わせると、所得が高い層では負担割合がかなり高くなっていきます。税率の刻みは国税庁タックスアンサーNo.2260「所得税の税率」で確認できます。一方、法人にかかる法人税はおおむね一定の税率帯で、所得が一定額までの中小法人には軽減された税率が用意されています。
つまり、すべての利益を個人で受け取ると高い累進税率がかかる部分も、一部を法人に移すことで、より低い税率帯に収まる可能性があるのです。これが「税率の差を使う」二刀流の出発点になります。
所得の種類を分けられるという発想
二刀流のもう一つのポイントは、所得を一つの大きな塊にせず、性質の違う複数の所得に分けられることです。たとえば、個人事業として続ける部分は事業所得、法人から自分に支払う役員報酬は給与所得、というように分散できます。
給与所得には給与所得控除という、収入に応じて一定額を差し引ける仕組みがあります。事業所得だけのときには使えなかったこの控除を、法人から役員報酬を受け取ることで新たに活用できる点も、二刀流が注目される理由の一つです。
「二刀流」とは具体的にどういう状態か
個人事業を廃業せず残したまま、別に法人を設立する
事業の一部(特定の取引先や特定の業務)を法人で受ける
残りの業務は引き続き個人事業として行う
法人からは自分に役員報酬を支払う
このように一人の事業者が個人と法人の二つの器を持ち、業務や報酬を振り分けるのが二刀流のイメージです。両者は別人格として扱われるため、それぞれで所得計算が行われます。小規模な法人を組み合わせる考え方はマイクロ法人と個人事業の二刀流でも整理しています。
報酬を分散させる具体的なパターン
業務ごとに個人と法人で受け先を分ける
もっとも基本的なのは、業務の内容や取引先によって、個人で受ける仕事と法人で受ける仕事を分けるパターンです。たとえば、長く付き合いのある取引先は個人事業として継続し、新規に大きく伸ばしていく事業は法人で受ける、といった形です。受け先を分けることで、自然と所得が二つに分散されます。
ただし、実態と合わない振り分けは認められません。法人で受けると決めた業務は、契約も請求も法人名義で行い、入金も法人口座で受けるなど、形式と実態をそろえることが欠かせません。
法人から自分へ役員報酬を支払う
法人で得た利益をそのまま法人に残すと法人税の対象になり、自分の生活費として使うこともできません。そこで、法人から自分に役員報酬を支払います。役員報酬は法人にとっては経費(損金)になり、受け取る自分にとっては給与所得になります。
このとき、役員報酬を高くしすぎると個人の所得税が増え、低くしすぎると法人に利益が残って法人税が増えます。個人と法人の税負担の合計がなるべく小さくなる金額を探す、というのが役員報酬設計の基本的な考え方です。なお役員報酬は、原則として期首から一定期間内に決め、その事業年度中は毎月同額にする必要があるなど、自由に増減できない点にも注意が必要です。
家族への給与で分散する場合の注意
法人から配偶者や家族に給与を支払い、世帯全体で所得を分散させる方法もあります。一人に所得が集中するより、複数人に分けた方が累進税率の面で有利になることがあるためです。金額の決め方は家族への給与をいくらにするかの考え方、世帯での分散と扶養の関係は所得分散と扶養の壁の整理が参考になります。
ただし、実際に働いていない家族への形だけの給与は認められません。担当する業務の内容や勤務の実態があり、その業務に見合った金額であることが前提です。勤務実態のない高額な給与は、税務調査で否認されるリスクが高い点に十分注意しましょう。
見落としやすい社会保険料の影響
法人をつくると社会保険は原則加入
二刀流を考えるうえで、税金以上に重要になることがあるのが社会保険料です。法人を設立して役員報酬を支払う場合、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が原則として必要になります。これは個人事業時代の国民健康保険・国民年金とは別の制度です。厚生年金や社会保険の仕組みは日本年金機構の案内でも確認できます。
社会保険料は、会社負担分と本人負担分を合わせると、報酬に対してかなりの割合になります。会社負担分は法人の経費にはなりますが、その分の現金は確実に出ていきます。「税金は減ったのに、トータルの手残りはあまり変わらなかった」という事態は、この社会保険料を計算に入れていないことが原因のことが少なくありません。
役員報酬の金額が保険料を左右する
社会保険料は役員報酬の金額に応じて決まります。したがって、税金だけを見て役員報酬を決めると、社会保険料の負担を見誤ることがあります。報酬を低めに抑えれば社会保険料は下がりますが、その分だけ法人に利益が残って法人税がかかり、将来受け取る年金額にも影響します。
逆に報酬を高くすれば手元の自由なお金は増えますが、所得税・住民税・社会保険料がそろって増えます。税金と社会保険料はセットで考えるというのが、二刀流設計でもっとも大切な視点です。
個人事業を残すことで生じる手続き
個人事業を残したまま法人もつくると、個人としての確定申告と、法人としての法人税申告・年末調整など、申告や手続きが二本立てになります。会計帳簿もそれぞれで分けて記録する必要があり、事務作業の量は確実に増えます。個人と法人それぞれの帳簿づけを外に出したいときは、記帳をまとめて任せる方法も検討できます。
節税で浮く金額と、増える事務負担や専門家へ支払う費用とを比べて、トータルで見合うかどうかを判断することが欠かせません。規模が小さいうちは、手間に見合わないこともあります。
二刀流が向いている人・慎重に考えたい人
検討する価値が出てくる目安
一般論として、個人事業の利益が十分に大きくなり、所得税の累進税率が高い層に入ってきたあたりから、二刀流を含む法人化の検討余地が出てきます。利益が小さいうちは、法人を維持するための費用や社会保険料の負担が、節税効果を上回ってしまいがちです。
また、事業の一部を切り出して法人で受ける合理的な理由があるか、取引先が法人との契約を受け入れてくれるか、といった事業面の条件もそろっている方が、二刀流は機能しやすくなります。
慎重に考えたい人の特徴
事業の利益がまだ安定していない、変動が大きい
事務作業や書類管理が苦手で、二本立ての申告に不安がある
節税の数字だけが先行し、事業上の必要性が乏しい
節税はあくまで事業を続けるための手段であって、目的ではありません。器を二つに増やせばそれだけ管理コストもリスクも増えるため、目先の税額だけで飛びつくのは禁物です。
形だけの分散が否認されないために
二刀流で重要なのは、個人と法人それぞれに実態があることです。法人で受けると決めた業務は契約・請求・入金まで法人で完結させ、役員報酬や家族給与には勤務実態を伴わせる。こうした形式と実態の一致がないと、税務調査で「実質は個人の所得」と判断され、分散による効果が否認されるおそれがあります。設計の段階で、税理士など専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
よくある質問
Q. 法人をつくれば必ず税金は安くなりますか?
必ず安くなるとは限りません。法人化や二刀流が有利になるかどうかは、事業の利益規模、役員報酬の設定、社会保険料の負担、増える事務コストなどを総合して決まります。利益が小さいうちは、かえって全体の負担が増えることもあります。数字を一度シミュレーションしたうえで判断することが大切です。
Q. 個人事業を完全にやめて法人だけにするのと、どちらがよいですか?
どちらが良いかは事業の中身によります。個人で続けた方が合理的な業務(小規模で取引先との関係が個人前提のものなど)があれば、二刀流のように残す意味があります。一方、事業全体を一本化した方が管理が楽な場合は、法人へ集約する方がすっきりすることもあります。事務負担とのバランスで考えましょう。
Q. 社会保険料が増える分は、まったくの損になるのですか?
単純な損とは言い切れません。厚生年金は将来受け取る年金額に反映され、健康保険には傷病手当金など個人事業時代にはなかった保障もあります。負担が増える一方でその対価としての保障も得られるため、目先のコストだけでなく、長い目で見たメリットも含めて評価することが大切です。
結論:税金と社会保険料を一体で考える
個人と法人の二刀流による報酬分散は、所得税の累進と法人税率の差、給与所得控除の活用などを組み合わせた節税設計です。ただし、法人をつくると原則として社会保険への加入が必要になり、税金が減っても社会保険料でその一部が相殺されることがあります。税金だけでなく社会保険料、さらに増える事務負担まで含めて、トータルの手残りで判断することが何よりのコツです。
とはいえ、個人と法人の二本立てになると、それぞれの帳簿づけや申告書類の作成にかかる手間は確実に増えます。本業が忙しい中で、記帳から申告までをすべて自分で抱えるのは大きな負担になりがちです。記帳代行の現場でも、二刀流を始めた後に個人と法人の帳簿が混ざって整理しきれない、というご相談を受けることがあります。
領収書丸投げドットコムなら、領収書や請求書を郵送またはスマホ撮影で送るだけで、日々の記帳から確定申告書類の作成まで代行できます。税理士監修で、契約の縛りもありません。「個人と法人それぞれの帳簿を整理しきれない」場合は、二本立ての帳簿をまとめて任せられるか無料で相談するところから始めてみてください。費用感は料金プランを見ると確認できます。
【本記事の監修】
領収書丸投げドットコム 責任者 山下
個人事業主・フリーランス専門の記帳代行サービス「領収書丸投げドットコム」(運営:それいけ株式会社)の責任者として、日々の記帳代行・確定申告サポートの実務知見に基づき本記事の内容を確認しています。本記事は、国税庁など公的機関の公表情報をもとに作成しています。








