敷金・保証金の差入れと返還の記帳|長期前払費用との違いを解説
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税務

敷金・保証金は「将来返ってくるお金」なので、支払った年の経費ではなく差入保証金という資産で処理します。差し入れと返還の記帳方法、返ってこない礼金の「長期前払費用」との違いまで、契約書を見ながら仕訳を組み立てられるように解説します。
個人事業主やフリーランスとして事務所や店舗、自宅兼事務所を借りるとき、契約時にまとまった敷金や保証金を支払うことがあります。金額が大きいだけに「これは経費で落ちるのだろうか」「どの勘定科目を使えばいいのだろう」と手が止まってしまう方は少なくありません。礼金や仲介手数料と混ざってしまい、まとめて経費にしてよいのか迷うこともあるでしょう。
☑ 事務所を借りるときに払った敷金・保証金を、経費にしてよいのか迷っている
☑ 「敷金」「保証金」「礼金」をどう仕訳で分ければよいのかわからない
☑ 退去したときの返還や原状回復費の差引きを、どう記帳すればよいか不安だ
以下では、敷金・保証金を差し入れたときと、退去で返還を受けたときの記帳方法を整理して解説します。あわせて、礼金などで使われる「長期前払費用」との違いもはっきりさせます。契約書を見ながら自分で仕訳を組み立てられるようになります。
契約時から退去まで長くまたぐ処理を任せたいときは、日々の記帳を支える記帳代行という方法もあります。まずは敷金・保証金の性格から確認しましょう。
敷金・保証金とは?まず性格をつかみましょう
敷金・保証金は「預けるお金」
敷金や保証金は、賃貸借契約のときに貸主(大家さん)へ預けておくお金です。家賃を滞納したときの担保や、退去時の原状回復費用に充てるために預けます。原則として、契約終了で退去するときに、差し引かれる分を除いて返ってくるお金です。
つまり敷金・保証金は「払って終わり」のお金ではなく、「いったん預けて、後で返ってくる(かもしれない)お金」という性格を持っています。この「返ってくる」という点が、記帳のうえでとても重要になります。返ってくるお金は、支払った時点では費用(経費)ではなく、資産として扱うのが基本です。
礼金・仲介手数料との違い
契約時には、敷金・保証金のほかに礼金や仲介手数料、前家賃なども一緒に支払うことが多いものです。これらは性格がまったく違うので、分けて考える必要があります。
敷金・保証金…貸主に預けるお金。退去時に返還される部分がある(資産として処理)
礼金…貸主へのお礼として渡すお金。返ってこない(費用や繰延資産として処理)
仲介手数料…不動産会社へ支払う手数料。返ってこない(その期の費用として処理)
前家賃…翌月分などの家賃の前払い(地代家賃として処理)
契約書や明細を見て、どれがどの金額なのかを最初に仕分けることが、正しい記帳の第一歩です。一括で「礼金敷金」などと書かれている場合は、内訳を貸主や不動産会社に確認しておくと安心です。前払いした費用の扱いは短期前払費用・年払いの扱いも参考になります。
「返ってくるか」で処理が分かれる
記帳のポイントを一言でまとめると、「将来返ってくるお金かどうか」で処理が変わるという点に尽きます。返ってくる敷金・保証金は資産(差入保証金など)として計上し、返ってこない礼金などは費用または繰延資産として処理します。この大原則を押さえておけば、迷ったときの判断がぶれにくくなります。
敷金・保証金を差し入れたときの記帳
使う勘定科目は「差入保証金」
敷金・保証金を支払ったときに使う代表的な勘定科目が差入保証金です。これは「貸主に預けているお金」を表す資産の科目で、貸借対照表に資産として残り続けます。会計ソフトによっては「敷金・保証金」という名前の科目が用意されていることもあり、その場合はそちらを使っても問題ありません。
大切なのは、支払った金額をその年の経費にしてしまわないことです。預けたお金はまだ自分の手元に戻る可能性があるため、費用ではなく資産として記録します。経費にできないのは少し残念に感じるかもしれませんが、その分は退去時に戻ってくる(または返ってこないと確定したときに費用化する)と考えれば納得しやすいはずです。
仕訳の具体例
たとえば、事務所を借りるために敷金30万円を現金で支払ったとします。このときの仕訳は次のようになります。
(借方)差入保証金 300,000 円 / (貸方)現金 300,000 円
契約時に、敷金30万円・礼金10万円・仲介手数料10万円をまとめて普通預金から支払った場合は、性格ごとに科目を分けて記帳します。
(借方)差入保証金 300,000 円
(借方)長期前払費用(または支払手数料など)100,000 円 … 礼金分
(借方)支払手数料 100,000 円 … 仲介手数料分
(貸方)普通預金 500,000 円
このように、同じ「契約時の支払い」でも、内訳ごとに科目を分けるのがポイントです。礼金の扱いは金額によって変わるため、次の章でくわしく説明します。
自宅兼事務所のときの按分
自宅を兼用して事務所にしている場合、敷金・保証金のうち事業に使う割合だけを差入保証金として処理し、残りはプライベート分として事業の帳簿には載せない、という考え方があります。ただし、敷金は預けているだけのお金で、それ自体は費用ではないため、按分の主な対象になるのは家賃や礼金などの「費用」部分です。家事按分の割合は、床面積や使用時間などの合理的な基準で決め、年間を通して同じ基準を使いましょう(家賃・地代の科目の使い分けは地代家賃と賃借料の使い分け、必要経費の考え方は国税庁タックスアンサーNo.2210「必要経費の知識」を参照)。判断に迷うときは、契約内容を整理したうえで税理士などに確認すると確実です。
長期前払費用との違いを整理する
長期前払費用とはどんな科目か
長期前払費用は、すでに支払ったけれど、その効果が長期間(おおむね1年を超えて)におよぶ費用を、いったん資産として計上しておくための科目です。代表例が「返ってこない礼金」です。礼金は支払った時点で戻ってこないお金ですが、その契約期間にわたって事業に役立つと考えられるため、一度に全額を経費にするのではなく、期間に応じて少しずつ費用にしていきます。
具体的には、賃貸借契約に伴う礼金などで20万円以上のものは、原則として「繰延資産」として扱い、契約期間(または一定の年数)にわたって分割して償却(費用化)します。20万円未満であれば、支払った年に一度に費用として落とすことができます。この「20万円」という線引きは、覚えておくと便利な目安です。
差入保証金との決定的な違い
差入保証金と長期前払費用は、どちらも「契約時に支払い、資産として計上する」点では似ています。しかし、その後の扱いがまったく違います。
差入保証金…返ってくるお金。退去まで資産として残り、原則として償却(毎年の費用化)はしない
長期前払費用(礼金など)…返ってこないお金。契約期間などにわたって毎年少しずつ費用にしていく
つまり、差入保証金は「動かさずに置いておく資産」、長期前払費用は「毎年すり減らしていく資産」とイメージするとわかりやすいでしょう。敷金を長期前払費用として償却してしまうと、本来は資産として残るべきお金を誤って費用化することになるため注意が必要です。
保証金で「返さない部分」があるとき
契約によっては、保証金のうち一定割合を「退去時に返還しない(償却する)」と定めているケースがあります。いわゆる「敷引き」や「保証金の償却」と呼ばれるものです。この返ってこないと最初から決まっている部分は、敷金・保証金であっても実質は礼金に近い性格を持つため、差入保証金ではなく、礼金と同じように費用または繰延資産として処理するのが基本です。返還される部分だけを差入保証金として残す、という分け方になります。契約書の「償却」「敷引」といった文言を見落とさないようにしましょう。
退去・解約で返還を受けたときの記帳
全額が返ってきた場合
退去して、預けていた敷金・保証金が全額戻ってきたときは、資産として計上していた差入保証金を取り崩します。たとえば差入保証金30万円が普通預金に全額返金された場合の仕訳は次のとおりです。
(借方)普通預金 300,000 円 / (貸方)差入保証金 300,000 円
これで、資産に残っていた差入保証金がゼロになり、帳簿上もすっきりします。返ってきたお金は売上や収入ではなく、「預けていたお金が戻ってきただけ」なので、所得(もうけ)には影響しない点を押さえておきましょう。
原状回復費が差し引かれて返ってきた場合
実務でよくあるのが、退去時の原状回復費(クリーニング代や修繕費など)が敷金から差し引かれ、残額だけが返ってくるケースです(事務所移転・退去時の原状回復費の記帳は事務所移転と原状回復の記帳で詳しく解説しています)。たとえば差入保証金30万円のうち、原状回復費として8万円が差し引かれ、22万円が返金されたとします。このときの仕訳は次のようになります。
(借方)普通預金 220,000 円
(借方)修繕費(または雑費など)80,000 円
(貸方)差入保証金 300,000 円
差し引かれた8万円は、事業に関わる原状回復であればその年の経費として処理できるのがポイントです。原状回復費の内容によって、修繕費・雑費などの科目を使い分けます。差し引かれた金額の明細(精算書)は、経費の根拠になるので必ず保管しておきましょう。
返還されないと確定した部分の処理
契約で「保証金の○割は返還しない」と定められていて、退去時にその部分の返還がないことが確定した場合は、差入保証金として残していた金額のうち返ってこない部分を費用に振り替えます。長期にわたる契約で繰延資産として償却してきた場合は、その償却の流れに沿って処理します。いずれにしても、「返ってこないと確定したタイミング」で費用にする、という考え方が基本です。判断が難しいときは、契約書の条文と精算書をそろえて専門家に相談すると安心です。
記帳でつまずきやすいポイントと対策
よくある間違い
敷金・保証金を支払った年に、全額を経費にしてしまう
礼金(返ってこないお金)を差入保証金として資産に残し続けてしまう
退去時の返金を売上・雑収入として処理してしまう
原状回復費の差引き分を、経費に計上し忘れる
これらは「返ってくるお金か、返ってこないお金か」をあいまいにしたまま記帳すると起きやすいミスです。契約時に内訳をきちんと仕分けておけば、その多くは防げます。
契約書と精算書は必ず保管する
敷金・保証金の処理は、契約時から退去時まで何年もまたぐことがあります。契約書、敷金・保証金の金額や償却条件がわかる書類、退去時の精算書は、年度をまたいでも参照できるようまとめて保管しておきましょう。差入保証金は貸借対照表に資産として残り続けるため、毎年の決算で「いまいくら預けているか」を正しく引き継ぐことも大切です。
会計ソフトでの科目選び
会計ソフトを使う場合、「差入保証金」「敷金」「保証金」といった資産科目があるかを確認しましょう。礼金については「長期前払費用」や「繰延資産」の科目を使うことが多くなります。科目名はソフトによって少しずつ異なるため、迷ったら「資産か費用か」「返ってくるお金か否か」という観点で選ぶと、大きく外すことはありません。
よくある質問
Q. 敷金・保証金は、支払った年の経費にできますか?
原則として、退去時に返還される敷金・保証金は、支払った年の経費にはできません。返ってくる可能性のあるお金なので、「差入保証金」などの資産として計上します。経費にできるのは、契約で返還しないと定められた部分(償却・敷引部分)や、退去時に原状回復費などとして差し引かれた部分です。これらは返ってこないことが確定したタイミングで費用にします。
Q. 礼金と敷金は、同じように処理してよいですか?
いいえ、性格が違うため処理も分かれます。敷金は返ってくるお金なので資産(差入保証金)として計上し、原則として償却しません。礼金は返ってこないお金なので、金額が20万円未満ならその年の費用に、20万円以上なら繰延資産として契約期間などにわたり少しずつ費用化します。契約時にどちらの金額がいくらなのかを、明細で必ず分けて把握しておきましょう。
Q. 退去時に返ってきたお金は、収入として申告が必要ですか?
預けていた敷金・保証金がそのまま返ってきただけであれば、それは収入(もうけ)ではなく「預けたお金の払い戻し」なので、所得として申告する必要はありません。帳簿上は、計上していた差入保証金を取り崩す処理を行うだけです。ただし、原状回復費の差引きがある場合は、その差引き分を経費として記帳する処理が別途必要になります。
「返ってくるお金か」で考えれば迷わない|まとめ
敷金・保証金の記帳は、「将来返ってくるお金は資産(差入保証金)、返ってこないお金は費用または繰延資産(長期前払費用)」という大原則さえつかめば、決して難しくありません。差し入れたときは資産として計上し、退去時に返還を受けたら資産を取り崩す、差し引かれた原状回復費があればその分を経費にする、という流れを押さえておきましょう。契約書と精算書を年度をまたいで保管しておくことも、正しい処理を続けるうえで欠かせません。
とはいえ、敷金・保証金や礼金の仕訳は、契約から退去まで長い期間をまたぐうえ、返還条件や原状回復費の差引きなど判断に迷う場面も多く、本業が忙しい中で記帳から申告まで自分で行うのは大きな負担になりがちです。数字の置き場所を一つ間違えると、後の年度まで影響が残ってしまうこともあります。
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【本記事の監修】
領収書丸投げドットコム 責任者 山下
個人事業主・フリーランス専門の記帳代行サービス「領収書丸投げドットコム」(運営:それいけ株式会社)の責任者として、日々の記帳代行・確定申告サポートの実務知見に基づき本記事の内容を確認しています。本記事は、国税庁など公的機関の公表情報をもとに作成しています。








