ヒューリック——好立地不動産に集中して高収益を実現する経営
はじめに
不動産会社と聞くと、たくさんの物件を抱え、街中に多くの賃貸ビルやマンションを所有している大手をイメージされる方が多いかもしれません。あるいは、次々と新しいビルを建てて売っていく開発会社を思い浮かべる方もいるでしょう。しかし、不動産業界のなかには、保有する物件の「数」ではなく「立地の質」にこだわることで、高い収益力を実現してきた会社があります。それがヒューリックです。
ヒューリックは、東京の都心、それも駅から至近の一等地に物件を集中させ、安定した賃料収入を稼ぎ続ける独特の経営スタイルで知られています。もともとは銀行の店舗用不動産を管理する地味な会社でしたが、明確な戦略のもとで成長を続け、いまでは不動産業界のなかでも屈指の利益率を誇る企業へと姿を変えました。
本稿では、ヒューリックがどのような歩みをたどり、何を強みとし、どのような戦略で高収益を実現してきたのかを、規模を問わずあらゆる事業者にとっての学びという視点から、わかりやすく解説していきます。
1.成り立ち——銀行の不動産管理会社という出発点
ヒューリックの源流は、富士銀行(現在のみずほフィナンシャルグループの母体のひとつ)の関連会社にあるといわれています。もともとは銀行の店舗や事務所が入るビルを管理・運営することを主な仕事としていました。つまり、自らどんどん物件を仕入れて売買するというよりも、決まった建物をきちんと維持し、安定的に運用するという、堅実で地味な役割を担う会社だったのです。
銀行の店舗は、その性質上、人通りの多い駅前や繁華街など、いわゆる「一等地」に置かれることがほとんどです。誰もが知る場所、誰もが通る場所に店を構えてこそ、銀行は信頼と利便性を提供できます。結果として、ヒューリックは創業の経緯から、好立地の不動産を数多く扱う立場にあったわけです。これは偶然のようでいて、後の経営戦略を方向づける大きな資産となりました。
自分たちが持っているもの、扱ってきたものの本当の価値はどこにあるのか。ヒューリックの歴史は、その問いに正面から向き合うことから始まったといえます。多くの物件をやみくもに増やすのではなく、「銀行ゆかりの優良立地」という出発点を強みとして再定義したところに、この会社の独自性の芽がありました。
2.転機——「立地」に賭けるという戦略の選択
地味な不動産管理会社だったヒューリックが大きく変わっていく転機は、自社の強みを「好立地への集中」という明快な方針へとつくり替えたことにあります。不動産で安定して稼ぐうえで、最も重要な要素は何か。それは建物の新しさでも、規模の大きさでもなく、何よりも「立地」だという考え方です。
どれだけ立派なビルを建てても、人の集まらない場所では借り手がつきません。逆に、駅から数分の一等地であれば、多少建物が古くなっても、テナントは次々と入り、空室が出にくく、賃料も下がりにくいものです。立地のよさは、景気の波や時代の流れに左右されにくい、不動産の「揺るがない価値」だといえます。ヒューリックは、この当たり前のようで見落とされがちな原則を、経営の中心に据えました。
具体的には、東京23区のなかでも特に需要の高いエリア、駅から徒歩数分以内といった条件を満たす物件に資産を集中させていきました。手を広げて地方や郊外にまで物件を分散させるのではなく、「ここしか持たない」というくらいに対象を絞り込む。これは、限られた経営資源を最も価値の高いところへ集中させるという、選択と集中の発想そのものです。何を持つかを決めることは、同時に「何を持たないか」を決めることでもありました。
3.強みの源泉——空室率の低さと安定した賃料収入
好立地に集中するという戦略は、具体的な数字となって会社の強さを支えています。ヒューリックの保有物件は、立地のよさゆえに借り手が絶えず、空室率がきわめて低い水準に抑えられているといわれます。空室が少ないということは、それだけ安定して家賃収入が入り続けるということです。
不動産経営にとって、空室は最大の敵です。借り手がいなければ収入はゼロになる一方で、固定資産税や維持管理の費用はかかり続けます。立地のよい物件は、この「空室リスク」を構造的に小さくできる点で、経営の安定性に直結します。ヒューリックが高い利益率を維持できる背景には、この収入の安定性があります。
また、優良な立地の物件は、いざ手放すときにも買い手がつきやすく、価値が大きく下がりにくいという特徴があります。つまり、保有しているあいだは安定した賃料を生み、売却するときにも資産価値を守りやすい。立地への集中は、収益と資産の両面で会社を守る盾になっているのです。地味に見える「立地へのこだわり」が、実は最も合理的な経営判断だったといえるでしょう。
4.戦略の進化——再開発と環境・高齢社会への対応
ヒューリックは、安定した賃料収入に安住するだけではありません。保有する好立地の物件を建て替え、より価値の高いビルへとつくり替える「再開発」にも力を入れてきました。古くなったビルを最新の建物に建て替えれば、賃料を引き上げられるうえ、街の価値向上にも貢献できます。立地という土台の上に、建物の価値を積み増していくという発想です。
さらに近年は、環境への配慮を重視した建物づくりや、高齢社会を見据えた事業にも取り組んでいると報じられています。たとえば、エネルギー効率の高いビルの開発や、シニア向けの住まい・施設の運営など、社会の変化に合わせて事業の幅を慎重に広げてきました。ただし、それらもあくまで「好立地」という軸を外さずに進められている点が、ヒューリックらしさだといえます。
軸をぶらさずに、その上で時代の要請に応える。手当たり次第に新規事業へ飛びつくのではなく、自社の強みが活きる範囲のなかで成長の機会を探していく。この姿勢は、本業の強みを保ちながら少しずつ事業を広げたいと考える、多くの事業者にとっても参考になる進め方ではないでしょうか。
5.課題とリスク——好立地集中の裏側にあるもの
盤石に見えるヒューリックの戦略にも、課題がないわけではありません。第一に、好立地の物件は誰もが欲しがるため、価格が高く、新たに取得しようとすると多額の資金が必要になります。狙った一等地が、必ずしも思いどおりに手に入るとは限りません。集中戦略は、対象が限られるからこそ、その確保が難しいという宿命を抱えています。
第二に、東京都心という特定のエリアに資産が集中していることは、強みであると同時にリスクでもあります。都心の不動産市況や地価が大きく変動すれば、その影響を集中的に受けてしまうからです。分散していないということは、好調なときには大きな利益を生む反面、逆風のときには守りにくいという両面を持っています。
また、低金利を背景に不動産投資が活発になってきた時代の流れも、ヒューリックのような会社にとっては追い風でした。しかし、金利や経済環境が変われば、不動産を取り巻く前提も変わります。一つの成功した型に頼り続けるのではなく、環境の変化に応じて戦略を点検し続けることが、これからも求められるといえるでしょう。強みが大きいほど、その強みに頼りすぎる危うさにも目を配る必要があるのです。
おわりに——「数より質」が安定を生む
ヒューリックの歩みから、中小企業の経営者や個人事業主が学べる最大の教訓は、「数を追うより、質に集中することの強さ」です。物件をやみくもに増やすのではなく、本当に価値のある好立地に資源を絞り込んだからこそ、ヒューリックは空室に悩まされず、安定した収益を稼ぎ続けることができました。自社の強みがどこにあるのかを見極め、そこへ経営資源を集中させる——この発想は、規模の大小を問わず通用する経営の原則です。
限られた人手と時間しか持たない小さな事業者ほど、「何に集中するか」を見極めることが、生き残りと成長を分けます。しかし、自社にとっての「好立地」、つまり本当に強みを発揮できる領域がどこなのかをじっくり考えるには、まとまった時間が必要です。日々の経理や事務作業に追われていては、その大切な思考の時間がなかなか取れないのが実情ではないでしょうか。「領収書丸投げドットコム」は、領収書や請求書をまとめてお送りいただくだけで、面倒な記帳作業を代行いたします。事務の負担を手放し、ヒューリックが「立地」という自社の強みに集中したように、あなたも本業と経営判断に集中する時間を取り戻してみませんか。




